338話 王墓の遺跡 4 (※)
「くっ! まさか、こんな罠に引っ掛かるなんて!!」
王墓の遺跡の地下5階で、少女は悔しげに歯噛みした。
「ですから、申し上げたじゃないですか、姫。無茶ですって。まったく、姫って本当バカですよね。ちょっと、考えればわかることなのに。付き合わされる方の身にもなってくださいよ」
「ちょっと、聞こえてるわよ!!」
ぐるんと少女は後ろを振り返った。後ろにいた青年は、肩をすくめる。ちなみに二人が今いるのは落とし穴の中だったりする。一応、ダンジョンからの脱出アイテムを持っているために、それほど二人とも生存に関しては問題視していない。問題視しているのは、この王墓の遺跡の最奥で呪いを受けてしまった彼女の兄のことだった。王の墓を荒らした罰として、彼女の兄は今、呪いに苦しんでいるのだ。ここの最奥に行き、呪いを掛けた魔物を倒さない限り、兄は助からないと言われて、少女はいても立ってもいられず、わざわざこの遺跡までやって来た。
「ほらー、どだい無理な話なんですって。ここまで来たのも魔物に追い詰められて足元が疎かになったせいじゃないですか。そもそも、倒すったって、ここの魔物結構強いし。最奥の魔物なんておそらくレベル50越えしてきてると思うんですよ。ほら、だから諦めて脱出しまょうよ。死体が二つ増えないうちに」
冷静に考えてもかなり無茶なのだ。LV30にもなっていない二人で、この遺跡を踏破するなど、無謀と言われても仕方ない。この中に出てくる魔物さえ、本気で戦っても負けてしまう相手なのだ。彼らにとって、ここに来ることは自殺に等しい。
「はぁ。本当にわがままも程々にしてくださいよ」
「・・・・・・うるさいわね。さっき通りかかった二人組が助けてくれれば問題なかったのよ。あいにく、自分達では力になれませんとか言われたけど。ロープぐらい普通持ってくるでしょうに」
先程姿も見せずに穴の外から声を掛けてきた二人組がいたのだ。何故二人かというと、声は二人分しかしなかったからだ。あいにく、道具を持っていないので助けられないと言われ、穴から出ることは敵わなかった。
「ん? あれ、姫。ちょっと、まずいかもしれません」
「なによ? 何がまずいっていうの」
「聞こえませんか?なんか物音が」
耳を済ませてみると、確かに微かだが、足音が聞こえる。だが、それは魔物の足音のようで、一歩踏みしめる度に地響きが穴の中にまで伝わってくる。
「な、なに!?」
「どうやら、誰かが戦ってるみたいですね。あ、どうも勝ったっぽい」
物音だけで何故そこまでわかるかは少女には理解不明だが、これは使える!と少女は思った。
「サジュン! 風魔法で外に声を届けられる? 助けを呼んでみて!!」
「あー、しかたないですね。もしもーし。誰かいるなら、助けてもらえませんかー?」
サジュンは、魔法で声を届ける。すると、すぐにこちらに向かって来る気配を捉えたが。
「あ、やっべ」
サジュンが呟いたのを少女は聞き逃さなかった。
「ちょ、サジュン。今不吉な呟きが聞こえたんだけど」
「すいません、姫。どうも助けと間違えて魔物呼んじまったかもしれないです。あははは」
「ちょ!? 笑い事で済まないわよ!?上から落ちてこられたらどうするのよ!!」
「姫を盾にして、俺だけ助かります」
真顔できっぱり言い切ったサジュンの首を少女は絞める。
「薄情ものぉぉおおお!! この! それならあたしがあんたを盾にしてやるわよ!!」
「うわっ、ちょ、やめ!?」
わーぎゃーと穴の下で騒ぐ二人の上から見知らぬ声が落ちてきた。
「あれ? 助けてって声が聞こえたと思ったんだけど、ただの痴話喧嘩か。心配して損した」
赤髪に、琥珀色の双眸を呆れたように細めた子どもが、穴の上から覗いていたのだった。




