333話 曇天から光が射して(※)
「はぁ。クレスト神から頼まれて来てみれば、なんなんです、この惨状は?」
クク神は頭痛がしてきた頭を押さえながら、クレスト神の居城を見上げる。威容を誇っていた城は、今や無惨にも天井に大穴が開き、入口の門番であるキマイラは緊張のあまりおとなしくなっている。そのキマイラの背中をベッド代わりにしているのは、クレスト神の眷属でも上位のリュードだ。可哀想に、キマイラはピクリとも身動きができない様子で、いびきをかいてるリュードの邪魔にならないよう神経を張り詰めさせている。
そして、それ以外の眷属は残らず門と城との間に穴を掘り、交代で見張りをしながら、ゴーレムが外に出ないよう、最後の徹底抗戦を行っていた。
その中には、スディルナの姿も当然ある。
「クク神様。このような状況では、お構いもできずにすみません。ふがいない我が身を呪うばかりです」
「はぁ。貴方が謝る必要はありませんよ、スディルナ。私はただ、頼まれて様子を見に来ただけですから。そうそう、魔神から伝言です。反省したようであれば許してもいい、だそうです。まぁ、聞くまでもなく、懲りたようですけどね。さて、少し退いてもらえますか」
クク神はなんの気負いもなく、城へと歩を進め、特殊魔法の一種を放った。途端、あれだけ何をしても止まらずにいたゴーレムたちが制止した。
そのまま、クク神はゴーレムたちを一ヶ所に集めて、亜空間に放り込む。
あまりにあっさりと片付いたことに、クレスト神の眷属たちは驚きを露にする。
「助かりました。感謝致します、クク神」
「まぁ、あれは貴方たちにとっては天敵といっても過言じゃない代物ですからね。ちなみに、貴方たちがバカにしたテルアもあのゴーレム製作に関わっています。二度と彼を怒らせないよう、注意してくださいね。でないと、本当にクレスト神から愛想を尽かされますよ」
クク神の言葉に、眷属たちは一斉に頷いた。
「・・・とく、できません。納得できません! 何故、クレスト様やクク様はあの者の肩を持つのですか!?」
だが、そんな中反発したのはなんとスディルナだった。
「私は、クレスト様にお仕えして、千年以上経過しています! 私の方がクレスト様と過ごした時間は長いのに! あの者にクレスト様は直々に稽古をつけたり、呼び方でも特別待遇を受けている。嫉妬するなという方が無理です!!」
「・・・・・・・・・・・・。」
「私の方が、クレスト様を知っているし、眷属としての経験も私の方が・・・」
「黙りなさい、スディルナ。今の貴方の言葉は、とても不愉快です」
クク神は一言でスディルナを黙らせた。その膨大な魔力で、おまけでスディルナの声をも奪う。
「貴方にも思うことはあるでしょうし、腹も立つでしょうね、それは。ですが、貴方たちは怠惰に過ごしていたことを自覚していますか? 確かにここで様々な組手を行っていたのでしょう。ただ、未熟と停滞は違います。いつも同じばかりではいけないと、何故誰もが思わなかったのです? クレスト神のために腕を磨いている? 今回の一件で思い知ったでしょう。貴方たちは、いつのまにか自分たちが負けることを想像することができなくなり、徐々に自尊心と自信が傲慢さと怠惰に繋がっていたのですよ。貴方たちの上にも、実力者はちゃんといるというのに」
誰も言い返せず、俯いたり、悔しそうに顔を歪めたりする。
「今回の一件がいい薬になったでしょう。これ以上は何も言いません、自分達で考えてください。それと、戦いは常に正々堂々とは限りません。この経験をきちんと後に活かしてくださいね」
クク神は、ついでとばかりに城を元の状態に戻して、去っていった。
残された眷属たちは、ようやく長い戦いが終わったことを実感し、疲労と睡眠不足からぶっ倒れて、安眠を貪る。
つかの間の平和の中で、眷属たちはそれぞれに、クク神の言葉を重く受け止めていたのだった。




