329話 真打ち?
僕は、この後始末どうするのかなぁ、と考えて、ククさんと話そうとしたところで、ククさんがこめかみを揉んだ。
「余計なお荷物がくっついてくるとか・・・」
呟くククさんの言葉の意味がわからず、ん?となると、次の瞬間、僕の肩の上にずしりとした重みがかかった。
慌ててこけないように、バランスを崩さないように足を開いて、転ぶのを防ぐ。
「やっほー! 元気だったか、テルア!?」
声の主に覚えのあった僕は、へ?となる。だって、彼は移動魔法が断トツで下手なのだ。魔法を習得していても、本人が失敗すること前提で使わないぐらいに。
「ロード!? ちょ、なんでここに・・・ってか、一旦、離れて!?」
僕に肩車させてる形の太陽神に文句を言うと、ちぇっ、と残念そうに肩から降りてくれた。
「おいおい。一応ここ、俺の居城なのに、お前ら何してくれてんだ」
さらにはもう一人、筋骨隆々、二メートルを越す大柄な体躯の巨漢、この城の本当の主であるクレスト神の姿まであった。
その体から放たれる覇気は、途方もなく、寝ていた眷属でさえ飛び起きて膝をついたくらいだ。
「さすが、クレストのおじさん。伊達じゃないね」
「そりゃなぁ。クレストの威圧受けてピンピンできるのって、あいつの眷属でも普通に二百年くらい年季の入った奴じゃないときついだろうし?」
「ここに、まだ一年も経ってないのに、ピンピンしてる眷属が一名いますが」
「何事にも例外は付き物じゃよ、クク神」
いつのまにかじいちゃんとマクアさんがこっちに加わっている。ちなみに、マクアさんはまたちゃんとネックレスをはめて、五メートルの大きさになってるけど。クレストのおじさんは眷属を集めながら、事の次第を聞いて、はあ!?と大きな声を出している。
「お前ら、たかが俺の呼び名ごときで、魔神のじいさんに喧嘩売ったのか? いや、実際に言ったのはテルア? バカか、お前ら。呼び名が気にくわなかったら、俺がとっくに潰してるだろうが。伝え損なっていた俺にも非はあるが、そこまで判断ができなかったのか? スディルナ、どうなんだ?」
スディルナと名指しで指名されたのは、格好いい、白い甲冑姿の人物だった。身長は百七十ぐらいだろうか?
「いえ、判断はできていましたが、新人にはきっちり我々の力を示しておくことが肝要かと思いまして。これも新人が受ける洗礼です、クレスト様。新しく来た同胞を歓迎するために、我らはやったのです」
きびきびと返答するノリは、まるで軍隊の兵士のようだ。
「スディルナは、相変わらずだなぁ。あんな殊勝なこと言ってるけど、オイラの目は誤魔化せないよ。スディルナが他の奴らを焚き付けたんだ。でなきゃ、眷属全員がここに、集合するはずがない。よっぽどクレストのおじさん呼びが腹に据えかねたんだろうなぁ」
こそこそと耳打ちしてくるロード神に、僕はしばらくは絶対にここに、近づきたくないと心底思ったのだった(後に、土採取のためにここに来ざるを得なかったんだけども)。
さて、とりあえずクレストのおじさんが雷を落としてくれたおかげでひとまず眷属問題は落ち着いた。
次は本題だ。
「クレスト様!」
僕が呼び掛けるとすぐに即座に反応したクレストのおじさんから両頬を引っ張られた。
「お前まで様付けで呼ぶな。いつも通りに呼べ」
「ふぁ、ふぁい」
僕がわかったという感じで頷くと、手が離れる。
「おじさん、門番のキマイラってどこで手に入れたの!? 僕も欲しいんだけど!!」
「あ? キマイラ?」
「もふもふだし、それなりに強そうだし、空も飛べるし、毒も採取できそうだしで、捕獲したいんだ!! どこにいるの!?」
期待に満ちた笑顔でおじさんに質問すると、おじさんは考え込む素振りを見せた。
「あれか? ・・・・・・確か、あれは王墓の遺跡から連れてきたものだが」
有力情報ゲット! やったね、これでもふもふを仲間にできる!!
「あ、それと、マクアさんがここの土を採取したいんだって。許可もらえる?」
「マクアさんって、あぁ、巨人マクアか。いいのか、クク神? こいつを自由にして」
クレストのおじさんがクク神に確認する。
「今のところ、問題はありません。基本的にマクアは魔神の城にいますから」
「あぁ、そうか。あそこなら、確かに監獄にも匹敵するな。納得した」
マクアさんのこともどうやら認めてくれたようだ。さて、これでお暇できるかなと思っていた僕は、甘かったらしい。
「あ、クレスト! オイラからも少し、提案があるんだ!聞いてもらえるか?」
「ん? なんだ?」
「今からここにいる全員巻き込んで、トランプ大会しよう! 優勝した奴には、オイラから不死鳥の涙をプレゼントするから! あ、でもゲームに負けた奴は、罰ゲームな! オイラ渾身の一撃をお見舞いするから!! ・・・・・・・・・この程度で済んで良かったと思えよ、クレストの眷属共? オイラの友達に手を出した代償としては、安いもんだろ?なんなら、全員素手で相手してやるけど」
ロードは笑顔だった。笑顔なのに、放たれる威圧が身を焦がすようだ。正直、怖い。
「いいだろ、クレスト! たまには羽目外さないと、鬱憤溜まるし!」
「しょうがねぇなあ。誰か、トランプ持ってこい」
悪いけど、僕はそこで一抜けたをさせてもらうことにした。
トランプ一組だけじゃ足りないだろうと、ある程度のボードゲームと双六も置いていくことにする。それで、なんとか僕とじいちゃんとマクアは抜けることが許された。マクアはこれから土の採取らしい。頑張ってねー。
「さぁ、始めようか?」
ロードの凄みさえ感じる笑みにクレストのおじさんの眷属が残らず震え上がったのだった。




