325話 城内では(※)
クレスト神の居城内にある修練場の一つでは、二つの人影が刃を交えていた。
片方は、短い青銀色の髪にブルーアイズの少年。もう一人は、黒髪を頭の左右できっちりくくった、ツインテールの少女。少年は中肉中背だが、その体躯に見合わない大剣を、少女は一対の双剣が得物だ。服装はどちらも軽装である。ただし、四肢に二人は重りの輪をつけている。輪の一つが成人男性の一人に匹敵する重さであり、それを付けながら二人は高速で動いていた。明らかにただ者ではない。
「なー、チル。最近さ、クレスト様、全然城に帰って来ねぇなぁ」
「・・・そう、だね」
刃を高速で打ち合わせながら、二人は会話に興じる。
と、言ってもほとんど少年が話しながら、少女はそれに、相槌を打つだけだが。
「やっぱ、クレスト様が帰ってこねぇと、おもしろくねぇよ。そりゃさ、クレスト様だって、忙しいことくらい、俺だってわかってっけどさ。最近、顔さえ見せてもらえないじゃん」
「・・・・・・仕方、ない。今度のイベント、クレスト様の主催。・・・クレスト様が準備に忙しいの、当然。でも、私も、本当は寂しい」
「だよな〜。あーあ、クレスト様、手伝いで俺のこと、連れ回してくれねぇかな」
「・・・・・・自分だけ、ずるい、アルト。その時は私も一緒」
いつもの修練の光景だった。この修練と称した手合わせは、恐ろしいことに決着がつくか、何事かが起きるまでやめないというのがここでの規則だった。
故に、三日三晩手合わせが続くことさえ珍しくない。特に、クレスト神の眷属ではまだ百年足らずの新参者であるアルトとチルとは比較的実力が近く、良い好敵手同士であった。
彼らの上には、百年など序の口、数百年、長いもので千年単位でクレスト神の眷属をやっている逆立ちしたって敵わない兄貴・姉貴分が控えている。
たまに、その兄貴・姉貴分の戦いっぷりを見学しにいったりもするのだが、二人ともまだまだ千年を越す眷属の戦いの見学はできない。
なぜなら、戦いの余波だけで死にかけるからだ。
そんな、人外絶後の目で追うことさえ不可能な戦いを見学するよりかは、おとなしく一つか二つ自分達より年長の眷属の戦いを見た方が勉強になる。
二人はそう思っていた。
そう、この日この時、外からの侵入者がやって来るまでは。
ガラーン、ガラーン、ガラーン、ガラーン。
「「!?」」
二人は一度激突して、すぐさま距離を離すと、顔を見合わせた。
「今の、来訪者が来たのか?」
「・・・・・・そう、みたい」
二人は、手合わせを中止し、城の玄関に当たる部分へと急いだ。
何者かが門番であるキマイラを倒して、扉を開けると、音が鳴る仕組みになっているのだ。比較的、玄関から近い修練場を使っていた二人は、玄関に一番乗りだった。
そこで、二人が目にしたのは。
「ええーっ!? そんな! 持ち帰っちゃダメなの、じいちゃん!」
「う、うむ。さすがにクレスト神とこの門番を勝手に持ち帰るのは、ダメじゃ。後で儂が文句を言われてしまう」
「もふもふなのにー! おっきくてもふもふで、空も飛べて、強そうで、毒の研究もできそうだから、シヴァも持ち帰ったら絶対喜ぶのにー」
「しかし、そやつはクレスト神とこで飼っとるペットじゃからのぅ。それでは窃盗罪になってしまうわい」
赤髪に琥珀色の瞳の少年が、氷漬けになったキマイラを持って、駄々をこねているのを、剃髪の老人がなだめているという、そんな光景だった。




