321話 マクアの頭
そこは、不思議な空間だった。周囲がぐにゃぐにゃと光の加減で常に歪んで見える壁や床。そして、数えきれないほどのゴーレムが襲いかかってくる。
それらは、ククさんが結界を張れば僕らに危害を加えることもできないが、ククさんからは、魔法スキルのLv上げには丁度いいだろうと、魔法のみで倒すことを余儀なくされる。
勘弁してほしくても、そうはいかないらしい。火属性と風属性の魔法で、全部まとめて吹っ飛ばしたけど。奥へ進むにつれて、どんどんと空気が重くなる。やがて、僕らは拓けた場所に出て、ごくりと息を飲む。僕の身長よりも大きな、顔があった。その顔は両目を閉じたまま、眠っているようだ。首から上だけしかないというのに、豪快ないびきをかいている。
「さて、とりあえず起きてもらいましょうか」
ククさんが、ぱちんと指を鳴らすと、大量の土砂が現れて、マクアの頭の上から降り注いだ。
いびきが聞こえなくなり、代わりに大きな悲鳴が空間に木霊したのだった。
「うぅ? おでば、一体・・・お、お前! まじゅちゅし!?」
舌をかんだのだろうか。がちりとすさまじく痛そうな音がして、マクアはぽろぽろと両目から涙をこぼす。
なんだか気まずい。
「にゃ、にゃしにきた!? おでを、封印しただけじゃ飽きたらず、痛めつけるつもりが!?」
「そんな、面倒なことしませんよ。マクア。あなた自由になりたいですか?」
「は?」
唐突な言葉にマクアは警戒したようだが、素直に自分の気持ちを吐露する。
「当たり前だ。俺は、自由になりだい」
「幾つか条件がありますが、全てのむなら解放しても構いません」
マクアの両目が大きく見開かれる。
「俺は、ずっどごごにいなきゃいけないんだろ?」
「あなたが造るゴーレムが目障りだから封じただけです。もしもあなた自身が脅威のない範囲でゴーレムを造るなら、解放できます。そのために造った魔法具も手元にありますが、私と誓約しますか?」
「ずるっ! こんな場所でずっと一人で何もでぎずに過ごすよりかはまじだ! 自由になりだい!」
ククさんが口許を綻ばせた。その嬉しげな表情は、成り行きを見ていた僕でさえ、少し寒気を感じた。
「いいでしょう。誓約後、あなたを解放します、マクア」
言葉で誓約させたククさんが、巨人の頭の封印を解く。
それと同時にマクアの体を呼び寄せて、巨人マクアは頭を体に乗せて復活したのだった。




