318話 カチの気まぐれ(※)
変わった異世界人だな。
それがカチがテルアに抱いた第一印象だった。
本来はあまりカチの住居には姿を見せないクク神が、わざわざ連れてきたことに少し驚いたが、眷属ならばそうおかしなことでもないかと、思い込もうとした。クク神の眷属ならば魔法が得意だろうと断じ、すぐに打っている物に集中したが、どうにも様子がおかしい。
今打っているのは剣だ。先程まで、確かにカチの打つ槌に従い、素直に変形していた剣は、最終仕上げとなる段階で嫌がるようにカチの槌に応えなくなった。駄々をこねる、とでもいうのか。
カチだけでは嫌だとでもいうかのように、うんともすんとも反応が返ってこなくなる。
すぐにカチは気づく。この剣は、自分だけで仕上げられることを嫌がっている。ならば、誰に手伝わせれば良いのか。
この場にいる人物は二人しかいない。クク神ではないことは最初からわかりきっていた。クク神は魔術の守護神。
剣に精通しているという話は聞かないし、むしろ苦手としているのは天上界でも広く知れ渡っている。
ならばもう一人の方か。今日初めて出会ったので、カチは改めて鑑定で件の人物をみた。
すると、驚くべきことに剣術スキルや拳術スキルが軒並み高い。さらには、魔法の素養も十分だ。
だから、カチはテルアと名乗る少年に手伝わせたのだ。
結果は大変満足できるものとなった。
まさか進化する魔剣になるとは。
カチの腕があれば、魔剣を造ることも確かにできる。だが、カチが造る場合、魔剣は進化しない物しか造れない。
進化という魔剣の能力を引き出したのは、確実にテルアなのだ。
故に、カチはテルアに敬意を払っている。
そのテルアは今はカチの仕事を時間が許す限り見に来る。視線をもらう程度では動じないが、その視線が凄まじい圧力を伴うとは、正直考えてはいなかった。今、カチが造っているのはクク神からのリクエストの品だ。
魔力を込めるのはクク神ということで、器だけ用意しているが、クク神の魔法が込められる器となると、特別素材のオーダーメイドになるのは当たり前といえる。
それを、造りあげながら、テルアの方をちらりと見遣ると。
信じられないことに、魔力を練っていた。
無意識なのだろうか? 魔法具を造るときには繊細な魔力操作が必要となるが、それをテルアは見様見真似で行っていた。カチから見ても、舌を巻くほどの正確さだ。
カチは思う。
そういえば、ここ数年、依頼人以外はここを訪ねて来ることもなく、一人で製作を行うだけであった。誰かと話したり接したりはほとんどしなかった。製作に邪魔になると考えてのことだったが、少し考えを改めた。
この異世界人に、魔法具の製作の基本を叩き込むぐらいなら、やってもいい。
それほど、テルアの魔力操作は研ぎ澄まされている。
その日、カチは初めてテルアを食事に誘い、テルアに魔法具とその製作の基本を教えてやったのだった。




