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316話 鍛冶の神 2

 すみません。ちょい遅れました。

 鍛冶の出来上がる行程がどうとか、どんな風にやればいいのかなんて、詳しくは知らない。だけど、まるで魔法のように、僕はその光景に魅入った。

 真剣な表情は、まるで鋭く研ぎ澄ませた刃のようで、眼光は鋭く、額からは滝のように汗が流れるが、その手際には微塵の狂いも迷いもない。流れる水の如く、流麗であり秀麗。

 まさに、職人芸。丹精等という生温い言葉ではとても表せない、魂を込める作業が行われているのだと、言われずとも理解した。

 心が震える。

 すごい、すごいすごいすごい!

 こんなに感動したのは久しぶりだった。

 一瞬たりとも、目が離せない。ドキドキする。どんなものが生み出されるのか、その瞬間を想像するだけでワクワクが止まらなくなる。

 打ち続けていた鎚の音が止む。だが、作業はそこで終わりではないようだ。

「すみません。こちらの話を聞いてもらえませんか?」

「まだきりがついてない。話なら、あとで聞く」

 短く告げられた言葉にククさんがこめかみに手を当てた。

 僕は、そっと移動して邪魔にならずに作業風景を見られる位置に移動した。

 打っているのは、剣だろうか?

 じっと僕が凝視すると、ちらりとこちらに視線が流された。

「・・・・・・なんだ?」

「どんな武器が出来上がるのか、気になって。邪魔なら、向こうに行っておきますけど」

「・・・・・・お前、スキルに様々な魔法を持っているな。それに、鋼糸もか。ちょっと、手伝え」

 手伝えと言われて、僕は驚いた。だって僕は全くの素人だ。手伝えと言われても何をすればいいのか、わからない。

 僕の表情からそれを読み取ったのだろう。だけど、気にしないらしい。

「不安がることはない。ただ、ちょっと、指示通りにスキルを使ってくれればいい。大したことはさせん」

「・・・・・・わかりました。だけど、僕は素人です。失敗しても怒らないでください」

 先に布石を打っておく。カチと呼ばれた男は初めて僕の方を向き、笑った。

「確かにそうだが、あまり心配はしていない。クク神の眷属は、基本的にどんな奴でも魔法が得意だ」

 ・・・・・・大いなる誤解だが、今は黙っておこう。不安材料を増やしたくはない。全力で要望に応えるために、僕は意識を集中させた。

「同時行使はできるな? 得意な属性の魔法を、俺が叩いてるこれに使ってくれ。できれば今撃てる最大威力の魔法が好ましい」

 僕の全力魔法、か。最大威力となると、この洞穴が吹っ飛ぶ程の魔法しか思い浮かばない。僕でさえ、制御を誤りそうになる属性混合魔法、氷麗絶羅を選択した。氷麗絶羅は、僕のオリジナルで、絶対零度まで冷却した空気(水属性)を、圧縮に圧縮を重ねて打ち出す(風属性)という簡単な理屈の魔法だ。ただし、その威力は折り紙付きで、じいちゃんをして完全にはダメージを相殺できなかった一撃必殺の威力がある。荒れ狂いそうになる周囲の空気さえも、魔力で抑えつけて、作り上げたのは一見白いボールだ。ただし、この中には破滅が詰まっている。

 カチさんも、その危険性に気づいたのだろう。だが、この程度では動じずにむしろ歯を剥き出して笑い、僕に指示を出す。

「なかなかだな。少し堪えろ。すぐに調節してやる」

 何度かカチさんが叩きながら、音が段々と高く澄んでいくのがわかった。さすがに早くしてくれないとこちらの制御がもたない。

 息も荒く、一刻も早く調節が終わることを願っていた僕は、「やれ」という言葉に、氷麗絶羅をカチさんの打っていた剣に放った。

 どばこぉぉおおおん。

 凄まじい音と、衝撃が洞穴を襲う。

 気づけば吹っ飛んでいた僕やカチさんの体を、ククさんに支えられていた。ククさんが少しあきれながら、諌めてくる。

「無茶しすぎですよ。私がこの洞穴全体に結界を張ったから無事だったようなものの、一歩間違えば洞穴全体が崩落して、死ぬところでしたよ」

「そんな説教より、あれはどうなった!?」

 僕は、先程放った魔法の中心地へと目を遣り、驚きのあまり、呼吸を失った。

 一振りの剣が宙に浮いていた。

 それは、とてもシンプルな見た目の剣だった。

 蒼と白でできた剣。剣身は中心が白で、剣身の中心から左右に蒼い流水紋が描かれており、柄は流水紋よりも濃い色をしている。一切の装飾を省き、機能性のみを追求したことを思わせるが、まるで生きてるかのようにその剣の脈打つ鼓動が僕の中へと流れ込んでくる。

「なに、この剣。まるで生きてるみたいだ」

「ん? あぁ、生きてるよ。こいつは、主の魔力を糧に、進化していく魔剣だからな。主の強さによってこいつはその形を変える。主の一番使いやすい形状にな。ほれ」

 宙に浮いていた剣を掴むとカチさんは満足げに頷き、僕に手渡してきた。剣の迫力と凄みと美しさに、僕は思わず手に取ってしまう。その瞬間、剣は僕の手から消え失せた。

「え? えぇ?」

「心配はいらん。魔剣は、基本的に主の体内に収まるもんだからな。無事に、主と認められんだ」

 なるほど。ステータスを呼び出してみると、持ち物のところに魔剣の文字があった。でも、一応僕、他にも剣持ってるんだけど。

「あぁ、名付けがまだだったな。お前が魔剣につけてやるといい」

「はぁ。・・・・・・ってちょっと待って! 待ってください! こんなに簡単に剣もらえませんよ!? これ、すごい剣なんでしょ!?」

「俺は色んな物を造りはするが、自分で使うことは滅多にない。俺の造るほとんどのものはわがままでな。気に入った主にしか力を貸さんし。その魔剣は、お前も産み出すのに一役買ったことを理解してる。存分に使ってやればいい。道具の製作者として、使われずに朽ちていくことほど、虚しく悲しいことはない」

 いや、理屈は合ってるみたいに聞こえるけど、これ、カチさんが一生懸命魂を込めて打った剣だよ? そんなもの簡単にもらえないって!

「貰っておいていいですよ、テルア君。カチは変わり者ですから。カチの製作物は威力がぶっ飛んだ性能のものが多くて、管理が大変ですし。主が決まるならそれに越したことはないんです。なにせ、造っては放置しますから」

「それは・・・・・・」

「カチが、出会って間もない人に自分の製作物を譲渡するなんて滅多にありません。おとなしく、好意を受け取っておけばいいんですよ。それが、カチの望みなんです」

「でも、お代が払いきれないよ、こんなの」

 泣きそうになりながら、僕が言うと。

「それなら、今後、俺の造る道具の材料を集めるのに協力してもらいたい。基本的に俺は出不精でな。あまり、ここから離れないんだが、造りたい物の素材をそちらに伝えて持ってきてもらう。いわゆる協力関係だ。それなら、いいのではないか?」

 その言葉に、少し納得しきれないものがありつつも、僕は頷いたのだった。


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