309話 魔界を目指してゴー! 5
「いやー、困ったねぇ、マサヤ」
「まさか、こんなことになるとはな。これは俺も予想外だった」
マクアの指を追跡して、たどり着いたのは、大きな森を抜けて、小さな洞窟の奥にある泉だった。
黒い水で満たされた泉は、黄泉の桜の人型を思い出してあまりいい気はしない。ただ、その泉の奥底では、渦ができている。おそらく、これが魔界へ通じる「ゲート」なのだろう。
「ま、ここで迷ってると、マクアの指を見失うってこともあるよねぇ。仕方ない、覚悟を決めて飛び込むか」
「そうだな」
あれ? ずいぶん素直だなぁ、マサヤ。てっきり反対されるかと思ったんだけど。僕の不思議そうな視線に気づいたのか、マサヤが恨みがましく呟く。
「仕方ないだろ? お前なしで、ここから無事に街に戻れるとか思わねえよ、俺も。最後まで付き合うしかないだろ、ここまで来ると」
「持つべきものは、友人だね、ありがとう、マサヤ!」
僕が満面の笑みで礼を述べると、ふかーいため息が聞こえてきた。まあ、そのため息は聞かなかったことにして。
まずは、僕がどぼん、と泉に飛び込んだ。体はどんどん沈んでいき、底にある渦の中へと体が吸い込まれる。暗闇が訪れるが、前へ前へ進むとすぐに再び水の底にいた。ただし、ここの水は黒くない。
自分が出たからか、こちらにもある渦にまた体が引き戻されるということはなかった。僕は、上に見えるゆらゆら揺れる光を目指して水をかきながら浮上する。
泉から顔を出すと、周囲の光景は一変していた。
洞窟の中だったのが、ここは違う。黒い幹で、背の高い木々が辺りを不気味に彩る。ただし、その木には本来あるべき葉がなかった。幹と枝だけだ。
「うっわぁ。こんなところに、マクアの頭があるのかな? 指はさすがにもう見当たらないか」
メニューを呼び出して、自分が今どこにいるか確認できないかと、試そうとしたところでマサヤが、僕と同じ泉から出てきた。
マサヤもこの光景には驚いたようで、キョロキョロと周囲を見渡している。
「テルア、ここが魔界か?」
「ん〜、そうみたい。一応、これでじいちゃんからの課題はクリア、かな。でも、マサヤ。問題もあるみたい」
「問題? 何が問題なんだ?」
「ここ、どうも魔物のレベルが異様に高いみたいだよ。現に、あれ」
僕が指差した先から、獰猛な気配が漂ってくる。
「っ!? 何かいる!?」
「やっぱり一筋縄じゃいかないか〜。マサヤは危ないから下がっててねー」
僕は、温羅さんがくれた小太刀を抜いた。
現れたのは、僕やマサヤよりも数段大きい、泥でできたゴーレムだった。
「ゴーレム系って、確か体のどこかにある文字を消すしか倒す方法なかったような。うわぁ、面倒!」
とりあえず、マサヤを泉に突き落として、僕はゴーレムに対峙したのだった。
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