31話 修練の塔 6
気合いを入れ直していたところで。僕はこの場にもう一人増えていることに唐突に気づく。
「じいちゃん? そんなところで何やってるの?」
僕の声に答えたのは、じいちゃんこと、魔神ジャスティス。ガンダムッポイノも、悪魔兵兵隊長たちも、じいちゃんがいたのに気づかなかったのか、驚いて固まっている。
そもそも、じいちゃんどうやって僕の位置を掴んだんだろ? それにどうやってここまで来たんだろ? さすがに塔の中まで転移なんて簡単にできないよね?
「ジャスティス! 君、どうしてここに・・・って、そうか。君が鍛えたから、テルア君は短期間でこんなに強くなったのか!」
「お主の予想通りじゃよ。テルアは儂が鍛えたんじゃ。強いじゃろう、テルアは?」
じいちゃんが自慢げな笑みを浮かべる。それにガンダムッポイノは呆れた。
「そりゃ、君が直々に鍛えたら強くもなるよ。で、こんなところまでわざわざ来て、何の用?」
「テルアが魔物を仲間にすると聞いて、いてもたってもいられんでのぅ。儂の加護を付けてやろうと思ったんじゃ」
「それはいいね! 君の加護付きなら、育て上げれば神々の眷属だろうが、魔王軍だろうが簡単に蹴散らせるね!」
なんか、物騒なことを嬉々として話し合ってるじいちゃんとガンダムッポイノ。元々、二人とも知り合いっぽいな。でも、話し合ってるの、悪魔兵兵隊長のことなんだよね。嫌な予感がひしひしと胸を満たしていくのはナゼダロウ?
「あ、それならレベルドレインと、ついでに最上階でジョブにも就いてもらったらいいよ! さすがに道化師はレアジョブだから、今すぐには就けないけど、軽業師と魔法使いなら、大丈夫だし!」
「え!? そんなことできるの!?」
初耳情報に、思わず聞き返してしまうと、ガンダムッポイノは説明してくれた。
じいちゃんの知り合いだからか、簡単に教えてくれる。
っていいの? 僕一応プレイヤーなんだけど。あ、ここで説明しなくてもどっちにしろじいちゃんが教えるだろうから、内緒にする意味ないんだね。納得した。
「最上階のボスを倒した後、クリア特典として僕のいる小部屋が使えるようになるんだよ。そこで、お金を払うと新ジョブに就けるんだ。あと、レベルドレインは、レベルが低い内だと、ジョブとスキルレベルが上げやすいから、希望があればやるんだよ。レベル1まで戻して、ジョブレベルとレベルをあっという間に上げることができるしね、ここなら。ジョブはそのままでレベルドレインだけして、ジョブレベルを上げるっていう裏技もある」
なるほど。そんなお得特典が・・・ん? ちょっと待った!
「どうも、悪魔兵兵隊長がジョブに就いた後、レベルドレインするって感じに聞こえるんだけど。レベルドレインすると弱体化するよね、普通?」
「ジョブレベルを最高まで上げてると、ある程度の恩恵があるから大丈夫だよ。それに、加護付きの場合、1からレベルを上げるとステータスの伸び率が良くなるんだ。ジャスティスの加護だと、同じレベルでも、ステータス差が2〜3倍差になるんじゃないかな」
「ちょっと待った。いや、待ってください、ガンダムッポイノさん。それ、加護付きの僕らにも当てはまるってこと? 加護付きってそんなにすごいことになっちゃうの?」
今更だけど、じいちゃんの加護、改めてすごいね。あ、だからマサヤたちとのステータス差がえらいことになってたのか! 低すぎると思ったんだよ、あのレベルなのに!
「全部が全部、そうじゃないよ。ジャスティスの場合、本来そんな簡単に加護を得られないから、加護の特典がすごいことになってるだけ。本当は、ジャスティスがプレイヤーの一人に入れ込むのはまずいんだろうけど、まぁ、君は魔物使いだしね。ジャスティスに可愛がられても仕方ないよ」
「魔物使いだと、じいちゃんに可愛がられても仕方ないってどういうこと??」
ちらり、とガンダムッポイノがじいちゃんに視線を送った。じいちゃんは、別に話しても構わんぞ、といった感じで頷く。
「ジョブに就く恩恵は、何も技やスキルを覚えたり、ステータスが伸びるってだけじゃない。ジョブの中にはそのジョブに就くことで、神々から気に入られることだってある。例えば、農夫だと大地と豊穣の女神アルルン様に気に入られやすくなる、とかだね。魔物使いは当然・・・」
「じいちゃんに気に入られやすい職業だった、と」
「そういうことだね」
これ、僕の運、ゲーム内で使い果たしちゃってない? 偶然で片付けるには、ミラクルラッキーが連発しすぎてる気が・・・。
「ガンダムッポイノ。心配せんでも、儂が主神たちから怒られることはないわい。きちんと、テルアと契約しておるからの」
「えっ。君、契約までしちゃってるの。それは・・・」
何故か、ガンダムッポイノは僕の方を見た。哀れみの視線を向けられてる気がするんだけど・・・。
「無駄話はここまでじゃ、ガンダムッポイノ。最上階の小部屋にさっさと行くぞい。長話しすぎたわい」
じいちゃんが真顔になって、話を切り上げる。確かに、少々おしゃべりが過ぎたかもしれない。
「そうだね。ちょっとしゃべり過ぎたよ
。じゃあ、悪魔兵兵隊長の君だけこっちに来て」
僕の腕はじいちゃんに掴まれていた。
ぎゅぅうう。
じいちゃんの僕の腕を掴む力は強い。正直、痛くて仕方なかったけど、じいちゃんが不安そうに悔しそうにこちらを見下ろしてるから、何にも言えなくなった。
じいちゃんのこと、これでも僕、かなり信用してるんだけど。ガンダムッポイノの先程の視線といい、僕に隠してる何かがありそうだ。
胸に落ちた、僅かな不安。
それは消そうと思っても白い布にこびりついた汚れのようで、なかなか消すことはできなかった。
次→ 29日 8時




