307話 魔界を目指してゴー! 3
さて、困った。スレイは柄にもなく悩んでいた。それは、眼前の少年姿のプレイヤーが原因だ。この少年の不興は絶対に買いたくない。盗賊をメインジョブにしているミキを軽く捻ってしまったことからも、その事実が証明されている。誰もがあり得ないと笑い飛ばすような伝説級の能力を既に手にしている少年に、下手な交渉など吹っ掛ければ、破滅する。
故に、単刀直入かつ誠実にスレイは相手に、提案した。
「その、巨人マクアの指が、イベントアイテムだということは知っているか?」
「イベントアイテム? 初耳だな、それは。マサヤは知ってた?」
「一応、噂くらいならな。正確には巨人マクアの手だけど、その手の部分を削ぎ落とすと、手の一部はどこかを目指すらしいんだが、いかんせん、足が早くて追跡しても追いつけないって話だったが」
「その通りだ。恥ずかしながら、今まで誰一人として追跡を成功させたやつはいない。だが、テルアなら、なんとかなるのではないかと思った」
「多分、なんとかなるかな。それで?」
「追跡をする役目を引き受けてほしい。これは、イベントとしては難易度が高い。一緒にイベントに挑戦してもらえないだろうか?」
「うーん、パス」
テルアが断ると、全員が落胆した。せっかく巨人マクアのイベントをいち早く攻略できるかもしれないというのに、その肝心のキーパーソンが嫌がるならば、また最初から改めて手を考えなければならない。
「今のままだと、骨折り損のくたびれ儲けになるだろうしね。はっきり言うなら、ここの誰が挑戦しても、多分、イベントはクリアーできない」
続けられた指摘に、息を飲む。
「全員のステータスを見た訳じゃないから、断言できないけど。弱すぎる。今のまま、僕が協力したところで、多分マクアのイベントでは全滅だと思う」
「つまり、弱すぎるってこと? でも、やってみなきゃわかんないでしょ!?」
「マクアに辿り着くためには、ステータス平均がせめて五百はないと厳しいと思うよ、僕の見解では。誰か五百越えてる?」
誰も答えない。それが答えだった。
「そういうわけで、あきらめた方がいいよ。荷物返して」
淡々と荷物を受け取り、少年は出ていく。その後ろ姿を見送りながら、ため息が出てしまうのをスレイは止められなかったのだった。
ギルドを出て、しばらく歩いてギルドの建物が遠くなったところで、テルアははしゃいだ。
「やったよ、マサヤ! これで魔界に行ける!」
「は? 魔界?」
「巨人マクアの頭は、魔界のどこかに封印されてるって話なんだ。つまり、指の、後を追いかければ魔界に簡単にたどり着けるかもしれないってこと! 今月のじいちゃんからの課題、魔界に行くことなんだよね、僕」
「おま・・・あの場の全員騙したってことか!?」
「騙してないよ? 黙ってただけ」
「結果的にはおんなじだろうが! この性悪がっ!」
そんな口論がなされたなど、遠くギルドにいるものたちには知る由もなかった。




