302話 じいちゃんはやっぱりじいちゃんだった。
じいっと注がれる視線が妙に居心地悪い。何、何なの? 僕、動き悪くてダメ出しされるのかなぁ。
「あの、じいちゃん? それに温羅さん?僕の顔に何かついてる?」
とりあえず、手合わせは僕の勝ちということで文句はないだろうが、温羅さんとじいちゃんから凝視される理由がわからない。思わず眉間にしわを寄せてると、徐にがばぁっと抱きつかれた。
「テルア!いつのまにそんな高度な拳術スキルを身に付けたんじゃ! 儂は、儂は感激したぞい!」
「うわぁ!? ちょ、じいちゃん!? 抱きつかないで、痛い、痛いから!」
じいちゃんに力任せに抱きつかれればそれはもうヤバイ。なにせ、一応メインは魔法職っぽいのに、クレストのおじさんと数時間なら渡り合えるくらいには強いのだ。
ちなみに、条件付きでロードが数日らしい。不眠不休で戦うなんてぞっとしない話だね、と僕が言うと、ロードは笑いながら、オイラもクレストも疲労を感じることが少ないから、と答えが返ってきた。
そこら辺は信仰度合いによって疲労度の軽減とかあるらしい。
「ちなみに、テルアもあんまり疲れとかは溜まらないと思う。クレストの眷属は、基本的に戦闘狂が多いんだけど、クレスト自身が熱心に信仰されてるから、クレストの眷属でいる限りは、死ぬ確率は少ないと思う。まぁ、クレストが修行だぁあああ!とか言って鍛えない限りは」
「僕、思いきり鍛えられてる気がするんだけども!?」
「死ななきゃ大丈夫だって! オイラだって、通算206回くらいしか死にかけてないし!」
「充分ヤバイ数だけど、それ!?」
「まぁ、クレストとは千年以上の付き合いだから、そりゃ喧嘩もするって。まぁ、主にオイラの悪戯が原因で主神を怒らせて、追いかけ回されるんだけどな、ははっ!」
十年に一度は確実にそんなこと起こってるの!? 大丈夫か!?
と、最初は心配したけど、クレストのおじさんがよほど力加減を誤らない限りは、大丈夫らしい。なんだか、大丈夫の定義がおかしい気がするけど。つっこむのは控えた。
「おーい、魔神のじいさん。そんなところでいいんじゃないけ? そろそろテルアの視線が虚ろになってきとるんじゃけども」
「おお! いかん、いかん。つい嬉しくてのぅ。ほれ、テルア!それに、お前たちにも、イベントランキング入賞を祝って、儂からプレゼントじゃ!」
じいちゃんから、祝いとして僕が贈られたのは、またもや分厚い本ではなく、薄手の冊子二冊だった。ここまで薄手の物は初めて見る。
題名は、「魔界への行き方」と、「特殊魔法とその使い方」と書いてあった。
へぇ、魔界へ行く方法なんて本になってるんだ、と感心してると、じいちゃんお手製、じいちゃん印だった。
魔界への行き方としてはおよそ三種類程あるらしい。まずは、魔界へ繋がるゲートを見つけてその中に飛び込む方法。ゲートはどこでどう開くのかわからないので、かなり偶然要素が重ならなければならない方法だ。
次に、魔界へ行くために海を渡る方法。こちらの方が一般的らしいけど、魔界に、行くための海は強力な海洋系魔物が多数出るとかで、沈没率が非常に高いらしい。余程腕に覚えのあるものでない限りは、この方法は使わない。
最後は、移動魔法を使用する方法だが、これには一つ問題がある。移動魔法は一度行ったことのある場所、もしくは見たことのある場所でなければ、行けないという移動魔法の欠点がまず一つ。二つ目は、移動魔法がこの世界から失われてるということだ。現に、『魔法大辞典』には載っていなかった。じいちゃん特製のあの本に載ってないのだから、きっと使用するのは神々のみなのだろう。
そう思っていた僕はもう一冊の本を読み始めて、たらたらと冷や汗を流すことになった。
「あ、あの。じいちゃん。僕の気のせいでなければ、この本、一回読んだだけで何でか移動魔法使えるようになってるんだけど!?」
「使えた方が便利じゃろ? まぁ、簡単に覚えられて得した!くらいに思っとけば良いんじゃよ。ただし、移動魔法も使いこなすのは大変じゃ。ロードの移動魔法に巻き込まれたなら、わかっとるじゃろ?」
あぁ、確かに。目的地以外の場所に出て、えぇ!? となったっけ。あの時は焦った。ナーガ救出に向けて頑張ってたし。
「ところで、じいちゃん。これを僕に渡したってことは、要するに、次は僕らに魔界を目指せってことなの?」
「うむ! 実はな、儂の知り合いが、ちょっと困ったやつでな。儂がテルアに肩入れするのに、文句を言うんじゃ。別に、儂だって気に入った人間くらいおるのに。会うたびに文句を言われると、さすがに儂も頭にきてな。そいつに会うために、テルアたちには魔界に行ってもらいたいんじゃ。行って、テルアの魅力でメロメロの骨抜きにしてやれば良い! なんで、今度の課題は魔界にみんなで赴くことじゃな。課題期限は一月。まぁ、のんびりこなしてくれればいい」
のんびり、ねぇ。一見、長い期間を設けてるようにも見えるが、本を読む限りそう簡単にはいきそうにない。まず、魔界に渡るには、船が必要で、船が必要ということは港に出なければならない。 すなわち、アールサン、フェイマ以外の港のある街をまず目指さなければならないのだ。いや、その前に。
「あの、じいちゃん? ここから出るのって・・・」
「移動魔法を使えばすぐじゃ! まぁ、使いこなせなければここから出られんが」
僕らを鍛えるためにはなんでもやる。
・・・じいちゃんはやっぱりじいちゃんだった。




