30話 修練の塔 5
いつのまにか自分たちに混じっていたガンダムッポイノの存在に悪魔兵たちは最初こそ驚きはしたものの、すぐにガンダムッポイノに馴れた。っていうかガンダムッポイノの方が馴染んだ。
今は、僕の目の前で、お互いにショーの感想なんかを言い合っている。
「いやぁ、最後の花火もなかなか綺麗だったよね。最後のあれ、本当に光が降ってくるって感じで、幻想的だったし。僕は幻惑魔法に掛からなかったけど、君たちの頭の中の風景を、自分の頭の中で映し出してたんだ。すっごく興奮したよ!」
途中、ガンダムッポイノがかなりの高性能だと推測される言葉が漏れる。
じいちゃんといい、ガンダムッポイノといい、暇人なんだろうか? 人じゃないけど。
「ギィッ!ギギギッ?」
「あぁ、そうなんだ。君は最初の水の小鳥たちが気に入ったんだね。あれは可愛かったよね」
「ギィギィギギッギ!」
「あ、君は炎の輪のパフォーマンスが凄かったって言いたいんだね。わかるよ〜、その気持ち。あれだけ、ファイヤーボールを変形させた火魔法の腕もさることながら、あのスピードと音楽に合わせた動きには冴えがあったもんね!」
「ギィッ!」
「あ、君は最初から最後まで全部良かった、と。すごいね、好評価だよ! 良かったね、テルア君。あ、お茶どう? さっきのパフォーマンスで、大技続けて使ったからSP消費も相当でしょ?」
「まぁ、もらうけど」
迷宮内で、僕は悪魔兵たちに囲まれながら、何故かのんびりお茶をもらっていた。あんだけ動くと、やっぱり喉渇くよね、気持ち的に。
じいちゃん以外に初めて見せた僕のショーは、なんとか成功に終わったようだ。
それはいい。それはいいんだけども、問題は。
「ギィッ!ギギギッ、ギィッ!」
「・・・・・・。あの、とにかく顔上げて」
僕は悪魔兵兵隊長に、頭を下げられて何かを必死に頼み込まれていた。
「そのままだと、会話が成立しなくて不便そうだね。ちょっと待ってね」
ガンダムッポイノが、悪魔兵兵隊長の頭に、手を置く。
おお、手は細かい作業もできるようになってるんだ! でもロボットの手だね、ちゃんと。細部まで造りこまれてるところに、ガンダムッポイノの制作者のこだわりを感じるよ。名前以外は。
「うん、これでよし。しゃべってごらん?」
「ハイ。・・・コレハ」
あ、僕にも言葉がわかる。ガンダムッポイノが何したかは知らないけど、こっちの方が意志疎通しやすい。感謝だね。
「君たちの言葉だと、テルア君に通じないからね。何を頼まれてるかわからないと、テルア君も返事をどうしたらいいか困るだろうし。これで君の言葉はテルア君に通じるよ。自分の思いをぶつけるといい」
「アリ、ガタイ。カンシャ、シマス」
ガンダムッポイノのに礼を述べた悪魔兵兵隊長は、僕の方へと向き直ると、再び丁寧に頭を下げて、自分の思いを言葉にした。
「サキホドノエンギニ、カンプクシマシタ! ドウカ、デシニシテクダサイ!」
・・・・・・はい?
「いや、あの弟子って・・・」
「サッキ、ミセテモラッタワザヲ、ジブンモドウシテモミニツケタイノデス! オネガイシマス! デシニシテクダサイ! ザツヨウデモナンデモヤリマスカラ!」
すごい、意気込みだ。本当に、さっきのショーに感銘を受けたんだろう。
悪魔兵兵隊長は、期待と不安が入り混じった顔をしている。
「でもさ、君、魔物だよ? 街とか入ろうとしたら、怖がられるだろうし、その顔だと、観客なんて集まらないんじゃない?」
「モンスタート、バレナイヨウニシマス! アノワザヲミニツケテ、ダレカヲエガオニシタイノデス! コウフンシテ、ヨロコンデモライタイノデス! ジブントオナジヨウニ!」
悪魔兵兵隊長の、一歩も引かないって気迫が僕にも伝わってくる。
この熱心さ、どこぞの三つ目蛞蝓を思い出すね! 通算50回にも渡って僕に挑み続けてきた挙げ句、最後には魔神まで呼び出しちゃった、僕が最初に仲間にしちゃったあいつの姿と妙に重なるね! あはははははは。
・・・・・・断ったところで無駄だよ、これは。つきまとわれるよ、絶対だよ。確定だよ。いや、塔を出たら大丈夫かもしれないけどさ。
ちらっと僕はガンダムッポイノを見遣ると、質問してみた。
「ねぇ、ガンダムッポイノ。この塔の魔物ってさ外に出られるの?」
ズズッと緑色のお茶をすすりながら、ガンダムッポイノは答えた。
「基本は出られないね」
あ、そうなんだ。それなら断っても支障ないかな? と、思ったんだけど。
「僕の許可があれば別だけど」
「・・・ちなみにさ、ガンダムッポイノ。僕がこの悪魔兵兵隊長の頼みを断ったら、君、どうする気?」
「そりゃもちろん、悪魔兵兵隊長に塔からの外出許可出すよ。僕は塔の管理者だしね。塔の中の魔物を慮るのは当然でしょ?」
うん、詰んだ。これはもう、詰んだとしか言いようがない。
たとえここで僕が頑なに悪魔兵兵隊長を拒否しようが、外出許可を出された悪魔兵兵隊長は地獄の果てまできっと僕を追いかけてくる。そんな未来予想図しか浮かばない。
「うー、わかったよ。弟子にするよ」
あぁ、今回も、もふもふの魔物じゃないのか。どっちかというと、悪魔兵兵隊長は、いかつく、不気味な容姿だしね。
ん?っていうか、今気づいたけど、ここってもふもふの魔物いるのかな?
せっかく塔の管理者が来てるんだから、ちょっと聞いてみよう!
「ねぇ、ガンダムッポイノ。ここってもふもふの毛皮の魔物っている?」
「もふもふの毛皮の魔物? 確か、下層の20階付近に斧兎とか、モグランとかいるよ。それ以外だと、30階以上に出てくる一角獣とかかな」
「ここより上にはいないの?」
「いない」
きっぱり、という擬音を入れたくなるくらいの断言だった。
「なんで、いないの? 一体くらいいそうなものだけど?」
「うーん、恥を忍んで教えるけど、もふもふの毛皮を持つ魔物って、要するに獣系の魔物のことでしょ? 獣系の強い魔物の使用許可は、神々から降りないんだよね。あいつら、自分の眷属とかいって、獣系の強い魔物、自分の陣地に無理矢理引き込んで、囲っちゃうから。辛うじて、神々の中でも優しい大地と豊穣の女神のアルルン様だけ、一角獣までなら使ってもいいよって言ってくださってるくらい。この塔の上層には、神々が囲えなかった竜系の魔物しかいないんだよ。ま、竜系の魔物の方が獣系の魔物よりも強いし、僕は竜系と相性いいから問題ないけどね! ん、どうしたの? 竜系って聞いて、怖じ気づいちゃった?」
ガラガラガラガラガラ。
ガンダムッポイノの説明を聞いた僕の中では音を立てて、理想が崩れていく。
もふもふ。もふもふの魔物に囲まれてのエンジョイゲームライフを目指してるだけなのに。
どーしていつもいつもこうなるの!?
動物園のゲームは、頑張って友達勧誘して、レアガチャ引きまくったら恐竜と爬虫類ばかり当たって、いつのまにか「ジュラシックパーク」とか「爬虫類好きのための動物園」とか呼ばれるようになるし!
惑星のゲームだと、陸地が一切ないから、イルカやクジラを育てようとしたら、進化が変な方向に進んで半魚人や深海魚たちの楽園みたくなるし!
正也に誘われたRPGでは、もふもふの魔物を仲間にしようとしたら、仲間のスライムとキングコングの影響でスライムとゴリラ系の魔物しか仲間にできなくなって、魔物使いなのか、魔法使いなのか、剣士なのかがよくわからなくなったし!
最終的に仲間にしたスライムとゴリラ系の魔物が多くなりすぎたんで、拠点を探して移住したら、噂を聞きつけたスライムとゴリラ系の魔物がわんさか押し寄せて、どんどん大きくなって発展して、最終的に国になったし。
一日毎にねずみ算的に増えてく、住んでる魔物数を見るのが怖かったなぁ。
忙殺されるから。
あの時は法律やら国の仕組みを決めるのが大変だったよ、本当。
あ、あのとき最初に仲間にした三体、元気でやってるかな。
もう、あのゲームに入ることはできないんだよね、僕。
はっ! 話がそれてしまった。
つまり、僕はもう三度は失敗してるのだ、もふもふの魔物に囲まれての、エンジョイゲームライフを。
僕、運が悪いのかな?
今度こそは、四度目の正直であって欲しいよ、切実に。
「大丈夫だって! 君ならたとえ竜系でもちゃんと渡り合えるから! こんな短期間で、そんな低レベルでそこまで強いプレイヤーいないから!」
うん、ガンダムッポイノは、竜系の魔物と戦うことに怖じ気づいちゃったと思ったみたいだ。
見当違いの慰めだけど、ありがとう、励ましてくれて。
僕は、僕はめげない! 必ずもふもふの魔物を仲間にしてみせる!
次→19時
テルアのステータスがとんでもないことになりつつあるんですが、本人はまだ気づいてないです。
テルアのステータスは、修練の塔脱出後、紹介予定です。




