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291話 全ては遅すぎたのかもしれない。

 対峙している酒呑さんは、動揺をなんとか抑え込みながら、戦い続けていた。それでも、劣勢になっていくのはある意味仕方がない。相手は酒呑さんでも捕捉が困難な存在なのだ。

 むしろ、そんな相手を警戒しながらも戦いの形にしている酒呑さんに脱帽する。

「酒呑を、止めて、くれ、テルア。わーは大丈夫、じゃから。頼む」

 温羅さんから懇願されても、僕は首を横に振る。今、温羅さんから離れれば、ナーガが舞ってくれてる意味がなくなる。僕の頼みで己の全てを懸けて舞ってくれているナーガに、今さらやめろなどと、言えるはずがない。


「っ! 数が多い。それに、武器での攻撃がほとんど効かないってのは厄介だぜ」

 サイガが舌打ちと共に、酒呑と背中を預けるよう、向い合わせになる。

「時間稼ぎだけ、頼む」

 サイガに小声で頼みながら、酒呑は剣を上段に構えた。その剣身に、風が集まってくる。その剣で瘴気らを一掃するもすぐに元の形に戻ってしまう。

 やはり、大本を、断ち切らなければ効果は薄いようだ。

 そして、ここで大本の存在とは、酒呑が朱里と呼んだ意思ある存在だ。

「こっちも、大部分はましになってるんだけど・・・」

 焦りだけで突き動かんとする温羅さんをなだめすかしながら、嫌な予感が頭をもたげていた。誰もがそれを感じ取っているのに、誰もどうすればいいかわからない。

 そして、その時は訪れる。


「!! 酒呑!」

 サイガが悲鳴のように名を呼ぶ。僕は、息をのんだ。

「ふふふふ! あはははは! あはははははは!」

 狂った女の哄笑。その体から、無数の瘴気の棘を生えさせた酒呑さん。

 酒呑さんが、その場に膝をつく。耳障りな笑い声が大きくなる。


「・・・・・・つか、まえた」

 ・・・狂っていたのは、どちらなんだろうか。

 僕の目には、どちらも狂っているようにしか映らなかった。

「さぁ、ここからだ、朱里。お前の全てを、俺のモノにしてやる」

 宣言と共に、酒呑さんは瘴気を自分の身に集め始める。

 女の哄笑が止み、苦しげなあえぎ声へと変わる。

「あぁ、朱里。愛してる、愛してる、愛してる、アイシテル・・・」

 その姿は狂人のそれ。恋に狂い、相手に溺れ、相手に拒絶されたことに耐えられずに相手を死に至らしめた、鬼の成れの果てがあるだけだった。


「しゅてぇぇええええええええん!!」

 腕を伸ばし、近寄ろうとするサイガを、チャップが羽交い締めにして止めている。

 温羅さんの治療が、ようやく終了した。

「手遅れ、じゃな。もう」

 ため息のように漏らされた呟きは僕の耳にだけ届いた。ずっと踊り続けたナーガは精根尽き果てて、その場に倒れ込み、息を整えている。

「お前のそんな姿、わーは見たくなかったんじゃがな。世の中、うまくいかんもんじゃ」

 その場にあった瘴気を吸収した影響か、その肌はどす黒く染まり、額の角は禍々しく、その形状を変化させ、操っていた風さえも黄金から漆黒へと変化した。

「・・・・・・アイ、シ、テ。ぐぎゃぁあああああん!」

「せめて、わーが止めを刺しちゃる。それがわーのけじめじゃ」

 立ち上がった温羅さんは、悲しげに酒呑の成れの果てに大太刀を向けたのだった。

 

 

 


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