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289話 着いた先では(※)

 よ、ようやく書けた。

 進んだ先は、大きな穴のようになっていた。その下には、ここからでも見える程の桜の巨木がそびえ立っている。その、桜の樹の下に彼らの目的の人物はいた。

「テルア!」

「主!」

「師匠!」

 叫んだのは、誰が先だったろうか。だが、一番に穴へと飛び込んだのはブラッドとヤマト、そしてナーガだった。風魔法で姿勢と落下速度を調節しながら、ナーガは、穴の底へと到達する。

 まだ、上にいるものたちは、まとめてハイドの背に乗り、ハイドが鋼糸で命綱をつくりながらゆっくりと降りてきている最中だった。

「テルア、無事か!?」

「・・・・・・・・・。ナーガ?」

 テルアは顔を上げずに確認した。テルアの側には温羅が倒れている。

 その腹部が、どす黒く染まろうとするのを、テルアが神聖魔法で防いでいた。

 テルアの側には、薄桃色の髪に、緑の瞳の少女がいた。三人を囲むかのように、醜悪な存在が押し寄せてきている。


「ナーガ。鎮魂の舞、踊れる?」

「鎮魂の舞? いや、聞いたことないな。見たこともない」

「・・・・・・そっか」

「でも、神に捧げるための舞なら踊れる。そこの女! 頭につけてるのを一つ貸せ!」

 ナーガの言葉に驚きながらも少女は鈴のついた簪を二本引き抜き、ナーガの方へと投じた。

「サンキュ」

 危なげなくそれを受け取り、ナーガは、手早く自分の髪をまとめて挿す。

 本当ならば、きちんとした楽の音や、衣装、化粧を施すのだが、簡易的なもので我慢するしかないだろう。なにより、状況がそんな呑気なことを許さない。

 ナーガは、足で拍子を刻むと、拍子の始めから、滑るように動き始めた。

 ナーガが着ているのは、いつもの見慣れた黒服だが、踊り始めた途端に、ナーガの服などどうでも良くなる。

 ナーガが無意識の内に選んだのは、炎の乱舞だった。

 速く、激しく、時に穏やかに、燃え広がる炎を大胆に体全てを使って表現する。

 リン、リリン。リンリンリン。

 唯一音を奏でる鈴の音は、ナーガの動きに合わせて激しくリズミカルに鳴り響く。

 旋律はなくても、それは確かにナーガの踊りの伴奏だった。

「!! 少しずつ傷が戻ってる! だけど、まだ完治には程遠い。ナーガ、踊って!」

 ナーガは、テルアの望みのまま、無心で踊った。

 その秀麗な顔に笑みが浮かぶ。まるで、楽しくて仕方がないように。

 この身は炎の化身。

 この舞、この踊りを捧げるのは、テルアが必死に手当てをしている、鬼神へと。

 祈りと願いを携えながら、ただ一心不乱に体を動かす。

 温羅の腹部のどす黒い部分が、徐々に元の肌色へと戻っていき、傷も塞がっていく。

 ナーガは、踊りに集中していたので、気づかなかった。

 テルアは温羅の手当てをしていて、余裕がなかった。

 パリン!

 まるでガラスが碎けるかのような、澄んだ、高い音がした。

「・・・ごめん、なさいっ」

 テルアたちの周囲で蠢く醜悪な存在を押し止めていた壁が消えてしまう。

 嬉々として、醜悪な存在らはナーガを、温羅を、テルアを、少女を飲み込まんとした。

 だが。

「・・・・・・させねぇ」

 一陣の黄金色の風が吹いた。

 吹き去った後には、醜悪な存在が断末魔の悲鳴を上げる。

 それを為したのは、額に角を持つ、鬼人。

「お前らごときが、温羅様やテルア、ナーガに触れることは断じて俺が許さない!」

 酒呑は、手にした剣の切っ先を、醜悪な存在らに向けたのだった。



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