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29話 修練の塔 4 

 悪魔兵27体という数の暴力に取り囲まれた僕は、どうするべきか思案していた。

 こんな数相手にするのは、さすがに僕でもギリギリの戦いになりそうだし、やりたくない。

 そもそも、悪魔兵はレベル40越えが最低ラインだったはずだ。

 すなわち、僕がいつも相手にしてる魔物組よりも、レベルが高いということ。

 じいちゃんなら鼻唄混じりに蹴散らしちゃいそうだけど、今は僕一人だしねぇ。



 今は、スキルの威圧のおかげか様子見に徹してくれてるけど、これが襲いかかってきたらと考えるとぞっとしない。

 できれば逃げたいけど包囲されてるせいでそれも無理。

 うん、普通ならここで詰んだってなるよね! 僕の場合、まだ手は残ってるけどね! 

 じいちゃんとの特訓の成果を見せるときは今だ!

 思い出すんだ、あの辛口過ぎるダメ出しを! 泣きそうになりながらも、必死にこなした練習の日々(四日)を!

 僕は今、新しい僕になるんだ!

 よし、やるぞ!


 気合いを入れ直した僕は、すうと息を思いきり吸い込み。


「レディースアンドジェントルメーン! お集まりの皆さま、初めまして。僕の名はテルア・カイシ。今日は僕のステージにお越し頂き、誠に、誠にありがとうございます」

 にっこりと僕は笑顔を浮かべて、大袈裟に一礼し、周囲を見渡す。悪魔兵たちは、突然の僕の口上に、毒気を抜かれたのかポカンとしている。

 いい感じだ。このまま一気に僕のペースに持ち込む!



「さて、お集まりの皆さまが驚くのも無理はないこと。場所が場所だけに、皆さまも僕と戦うと思っていたでしょう。しかし! 僕は皆さまと戦いたくはありません。ですが、皆さまもそう簡単に退いてはくださらないでしょう。故に、僕から皆さまへ挑戦状です! これから僕が行うパフォーマンスを、皆さまが評価してください。もしも、皆さまがつまらない、楽しくないと思われた場合は、パフォーマンス中でも思う存分攻撃してくださって結構。そこでやられるのであれば、所詮僕の腕がへぼであったということ。皆さまを恨んだりなどけしてしません」


 息をつき、間をあける。この呼吸のタイミングも大事だ。


「ですが、もしも皆さまがすごい!おもしろかった!と思って頂けたなら、どうか僕のことを見逃しては頂けませんか。どうでしょう?」


 僕は、悪魔兵たちを束ねる隊長に訊ねた。隊長は困惑したものの、僕のステージが少し気になるのか迷う素振りを見せる。


「言ったでしょう? 僕のパフォーマンスが悪ければ、攻撃してもらっても良いと。判断は、僕のパフォーマンスを見てからでも遅くないのでは?」


 僕の言葉を吟味し、やがて隊長はこくんと首肯した。

 よし! なんとかここまではこぎつけられた。後は、全力でパフォーマンスを成功させるのみ!


 僕は満面の笑みを浮かべながら、丁寧にもう一度一礼した。


「寛大な判断、そしてチャンスを頂けたこと、感謝致します、悪魔兵隊長殿。それでは、早速まいりましょう! 僕、道化師テルア・カイシのマジックショー! とくとご覧あれ!」


 バァン、バァンと僕の背後で大きな白い煙が上がる。この煙は、地属性魔法と風属性魔法を同時に用いた演出だった。

 まだまだ、演出用の魔法はたくさんある。最初から、張り切っていくよ!

 

 僕が腕を横に振ると、煙の中から小さな水の小鳥たちが飛び出してくる。

 それを光魔法でライトアップさせ、キラキラと光るようにした。ちなみに、色は七色。色の違う小鳥たちが悪魔兵たちの頭上を飛び交うと、悪魔兵たちは、興奮しながら小鳥を指差す。

 喜んでくれてるみたいだ。

 よし、次!

 水の小鳥たちによって、観客(悪魔兵たち)に水を少しかけるが、悪魔兵たちはあまり嫌がる素振りを見せなかった。



 まぁ、悪魔兵の苦手なのは何故か闇属性だし、それさえ使わなければ大丈夫だろう。

 え? それはおかしい? 属性無視してるって?

 僕に言われても知らないよ。外見に騙されると痛い目見るってことじゃないかな?

 さて、周囲に水がまかれたところで、今度は火属性の魔法を使う。僕の両手に炎の(リング)が現れる。


 ミュージック、スタート!


 風魔法で予め録音していた音を流す。

 打楽器が結構目立つ、ノリのいい曲だ。それらに合わせて、僕は炎の輪でジャズリングを始める。

 炎の輪を、時に全てを空へと投げて大きな模様のように見せたり、逆立ちしながら足で受け止めてまた宙に投げたり、前転と後転を組み合わせながら、炎の輪を手で取ったりしてみせた。

 ちゃんと、音楽に合わせながら、だ。

 ノリのいい曲と、目の前で繰り広げられる古代から伝わる技に、観客たちは熱気を帯びてくる。

 観客(悪魔兵)たちは僕に釘付けになっている。次は何をしてくれるんだろうか。

 そんな期待に目を輝かせている。


 いいよ、とっておきの大技だ。

 さぁ、刮目しろ! これが、僕の今できる最大の大技だ!


 僕は幻惑魔法で周囲を夜空になったかのように見せた。

 ここまでショーに夢中になっているなら、幻惑魔法も容易くかかってくれる。

 塔の中だというのに、いきなり変わった景色に、観客からはどよめきが上がる。

 はは、そこまで驚いてくれるんならありがたいね。道化師冥利に尽きるよ。


 僕はアイテムボックスから、こっそりと糸を取り出した。この糸は、ハイドが口やお尻から出す糸だ。一本だけではほとんど糸があることさえ確認できないくらい細いけど、強度は折り紙つき。なにせ、ハイドの体を支えられるぐらいなんだから。

 僕はその糸を、こっそりと風と地魔法で壁や天井に固定していく。

 幻惑魔法で夜空にしたのは、何も盛り上がりを期待してのことじゃない。

 この夜空によって蜘蛛の糸の存在を隠すためだ。

 僕はアイテムボックスから取り出した一輪車に乗りながら風魔法で車体を浮き上がらせ、細い細い蜘蛛の糸の上を、一輪車に乗りながら綱渡りしていく。さらにはボールで玉投げをしながら、だ。

 観客の興奮は最高潮だった。興奮しすぎて、周囲の悪魔兵を押し退けて我先にと僕の近くにまで殺到するくらいだ。

 あ、兵隊長がキレて部下を殴ってる。

 それで兵隊の興奮が少し収まったみたいだ。

 最後に、僕は蜘蛛の糸から一輪車付きのまま宙返りをし、火魔法で花火を夜空に咲かせてから、ショーを終了した。

 鳴りやまない拍手と歓声。どうやらなんとか僕のショーを気に入ってもらえたようだ。

「すごい、すごい! あんなことができるなんて! 興奮したよ!」


 ・・・・・・あれ? 聞き間違いじゃなければ、今普通の言語で誰か話してたような・・・。


「君、すごいねぇ。気に入ったよ! 塔の管理者なんて面倒で退屈でどうしようもなかったんだ。君が来てくれて、本当に良かった! ショーもとっても見応えがあったし。あ、自己紹介が遅れてごめん。この塔の管理を一手に引き受けてる、ガンダムッポイノです」

「誰だ、名前付けたヤツ!」

 確かに、銀色の鋼の体を持ったガン○ムの縮小版にしか見えないんだけど! 名前が適当すぎる!

 僕は、前にあったようなやりとりを繰り返し、げっそりとしてしまったのだった。


次→28日 8時

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