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286話 神の眷属として(※)

 あぁ、綺麗じゃなぁ。いつ見ても。

 黄泉へと繋がる、その桜は花弁を散らしながら、黄泉へと渡れなかった魂たちを慰めている。恨み、憎しみ、憤怒、悲しみ、苦しみ、あまりにそれらを溜めすぎ、変質してしまった存在(もの)は、温羅から見ても、とても哀れな存在(もの)で。

 だが、現世にけして出してはならない存在でもある。

 故に、温羅はテルアを片手に抱いたまま、飛び降りて、その桜の前に立つ。

 大太刀を握り、刀身に炎を宿したそれで、一振り、二振りとすれば、哀れな存在らは炎に巻かれて、再び桜の樹の脇にある泉へと戻っていく。

「・・・・・・千年じゃ」

「・・・・・・?」

 抱いていたテルアを、温羅はその場に立たせた。こんな風に、この場に誰かと立つことになろうとは、温羅とて思いも寄らなかった。巻き込んだテルアには申し訳ないと考えながらも、それでも、内心歓喜しているのだから、始末に終えないと自分でも思う。


「千年、ここでこうして大太刀を振り続けて、こいつらが地上に出んよう、見張ってたんじゃ。それが、わーの神としての役割じゃけぇ。この時期は地上とこの黄泉桜が繋がる。じゃから、わーを信仰している鬼人族の祈りの力でこいつらをここに留めて、わーが外へと行ける。百年に一回がせいぜいじゃがの」

「ひょっとして、あの邪鬼とかって、こいつらが呼び寄せた?」

「少し違うかのぅ。邪鬼は、ここからこぼれ落ちた黄泉の瘴気が(こご)って地上で形を取ったもんじゃ。森の主たちは瘴気を取り込んで力を増した魔物じゃな。黄泉の瘴気には、それだけの力があるんじゃ。神か神の眷属でない限り、取り込まれて変質してしまい、生者に害をなすようにならぁな。本当に、厄介じゃけ」

「ねぇ、温羅さん。さっきから、ずばずば大太刀(それ)で斬ってるけど、ここ、火事にならないの? と、いうかあの、説明聞いてるとまるでイベント期間が終われば、僕もここに温羅さんと閉じ込められるような・・・」

「その通りじゃが?」

「いいっ!? ちょ、ひどい、それはひどいよ、温羅さん! 僕は外に出られないとか嫌だよ!? それに、こいつらに対してどうやって対処すればいいの!? 普通の攻撃効かないんでしょ!?」

 大丈夫じゃ、と温羅は呟いた。


あいつ(・・・)が、知っとる。そろそろ出てくるはずじゃ」

 温羅と同じく、この場所を守護するよう遠き昔に命じられた存在。黄泉の瘴気を封じ、楔としての役目を担う。

「お待ちしておりました。神の眷属たる方よ」

 薄桃色の髪に、美しい緑色の瞳を煌めかせながら、彼女は現れた。

 装束は、着物ではあるが裾がとても短く、膝までしかない、動きやすそうなものだった。頭には鈴をたくさん付けた(かんざし)を挿している。

「これで、御霊鎮めの儀が行えます」

「そろそろ、頭がオーバーヒートしそうなんだけど。とりあえず、僕に何をやらせたいのか説明してもらえる? 僕がここから一刻も早く出るために」

 自分の役割を朧気ながら察したテルアがため息も隠さずに問うたのだった。


次→10/6 19時、遅れる場合は21時

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