281話 朝日を拝みながらぶっ倒れる
「あぁ、朝日が眩しいなぁ」
僕の呟きは風に溶けて消えていく。
「そうじゃな。清々しい朝日じゃ。今日も新しい一日の始まりじゃな!」
「ソウダネ」
片言になりながら、僕は周囲を見回した。
さすがに疲れたのだろう。シヴァたちは砂浜に横になってる。寝やすいようにと、闇魔法を展開してみた。光を遮るだけの効果だが、意外と効果があるのか、サイガなんて大いびきをかいてる。
海岸には、着物の切れ端があちこちに散乱していた。それには、血がついたり骨がくるまれたりしている。そして、砂浜に残る氷や燃えた跡、人が落ちたら上がってこられないような穴が、昨日の激戦の名残を見せていた。
マサヤの言う通り、海岸にはたくさんの美人が来ていた。ただし、生者でなく、死者。それらが見渡す限り鬼火を纏いながら、海岸から砂浜に這い上がってきたので、掃討をやらされた。数は百や二百じゃなかったために、さすがに温羅さんから魔法使用許可が出た。
途中からはシヴァたちもやって来たり、鬼人たちも手伝ったりしてくれたけど、やはり数が数だけに、苦戦した。それだけの人数が集まると大規模な魔法は使えなかった。なので、小範囲程度の魔法を使うしかなかった。ついでに、なんで温羅さんから魔法使用許可が出たかもわかった。
死者の群れにはほとんど物理攻撃が効かなかったのだ。堅すぎて貫けないとかではなく、文字通りの物理無効。唯一、光属性や神聖属性が付いてる武器でしかダメージを与えられない。厄介すぎる敵だった。
なんとか朝日が昇るまで耐えると消えたが、その間どれだけ魔法を連発し、相手を倒したか数えることもしなかったがおそらく千近くはいっている。
連戦に次ぐ連戦で疲労はピークに達していた。と、いうか眠い。完全に徹夜なのだから、当たり前だ。思い出すと喉がひどく渇いてることに気づいた。ひとまず、今日はもうログアウトしよう。
「温羅さん、僕ちょっと現実に戻るね。僕も寝たいし」
よろよろしながら、僕は闘技場のある拠点まで戻った。まだ元気そうな金閣銀閣にみんなを運んでもらい、金閣銀閣にも休んでもらう。
僕はゲームからようやく十何時間ぶりにログアウトしたのだった。
「うっわ。また派手にやらかしてんなぁ、こりゃ」
ボサボサになった黒髪を、ヘアバンドで留めるというダサい格好をした無精髭の男が笑いながら携帯端末の動画を見ていた。そこには、赤い髪の少年と、彼がキャラ設定した鬼神が戦っている。激戦といっていいかもしれない。
「多少の融通はしてたが、会えるかどうかも仲良くなれるかも運なんだがな、本当は。やっぱ変わってねぇんだなあ」
かつて、「Thousand Orb Saga」というゲームで魔物たちの国を造り上げ、その国の王として君臨し名を馳せたプレイヤーだと、気づくものは気づくだろう。アバターをほとんど弄らずに流用しているのだから。
だが、他ならぬ彼自身がそれを決めたということに、男は彼の精神的な強さに苦笑いしてしまう。
自分は誰に対しても恥じることはしていない。
そんな思いが伝わってくる。
汚名を着せられた、かつての魔国の王は、萎縮も恐れもしていない。
相変わらずな彼のプレイスタイルに、男は安堵を覚えてしまう。
「んー、そだな。この様子だと、称号入りは確実だし。一つはこれで決まりだろ」
ぱちぱちとキーボードを叩き、称号設定を行う。基本的にゲームなど似たような称号が出てくるのが常だが、今の彼に相応しい称号を考えるのが、男にとってはとても楽しかった。
「明日でイベントも終了だし。さて、残りの称号も決めちまうかな」
再びキーボードを打ちながら、男は自分の仕事に戻ったのだった。




