278話 苦戦
これほどギリギリの戦いをしたのはいつ以来だろう。走馬灯とまではいかなくても、本気でゲームオーバーが脳裏にちらついて仕方ない。
「条件は対等なタイマン。魔法は使用禁止、スキルは拳術スキルなら使用できる、か。それでも、死にそうなんだけと・・・・・・」
僕は相手から逃げる算段を模索し始めた。そもそも、これを拳のみで破壊するとか、どう考えても不可能に近い。何故なら、相手は鉄製だった。いや、皮膚が鉄の塊のように堅いのだ。多少ダメージを与えても、自動回復のスキルで、すぐにふり出しにもどってしまう。
さすがにこれは厳しいと、魔法使用許可を頼んでみたが、温羅さんに却下された。知らないうちに、温羅さんに何か恨みでも買ったのかな、僕。
ダメだ、思考を戦闘に切り替えないと。このままじゃ、じり貧だ。さて、
どうしたものか。
ここは、小細工を労するしかないよね!
僕は、それを取り出した。取り扱い要注意の危険物を手にして、特攻を仕掛ける。
右右、左、斜め、次から次へと振るわれる鎌に似た腕の攻撃を避けて、距離を詰めて、僕は口とおぼしき場所に、危険物を放り込んだ。バゴン、と大きな音がし、鎌に似た腕が消失した。チャンスを逃さぬため、僕は攻撃の手を緩めなかった。回復量が多いこいつには、肉弾戦で挑むなら相手のダメージが蓄積するよう猛攻を仕掛けるしかないのだ。コンボが百を越えた辺りで、僕の体が淡く光る。
スキル、限界突破が発動しました!!
限界突破がどんなスキルかは知らないけど、今はありがたい。僕は、殴り、蹴り、自分の体を武器にして、相手に叩きつける。
ようやく、相手が倒れた。
それと共に、ドロップアイテムが地面に落ちる。
僕もボロボロだ。あと少し戦いが長引けば、ここに転がっていたのは僕だっただろう。
「はぁ〜疲れた。もう、嫌だ。戦いたくない」
僕はへなへなとその場で座り込んだ。HPは残り1割ちょい。レッドゾーンに突入している。
回復魔法を唱えると、体に残った気だるさが一気になくなった。
本当に、疲れた。
そんな僕に、温羅さんは人の悪い笑みを向けてくる。
「テルア。本番はここからじゃけぇ」
「本番?」
「忘れとるみたいやの。このアイテムはな、揃えることで効果を発揮する。ほら、こんな風に・・・」
温羅さんが、落ちていたドロップアイテムの側に次々に並べると、アイテムが宙に浮き上がっていく。
「なっ、なっ!?」
「こいつらはの、その昔海の向こうからやって来て、わーに喧嘩を売った奴らじゃ。じゃが、こいつらは妖怪でな。倒しても倒しても甦る。じゃけぇ、そいつらの体の一部や装飾品を使って、封印しとったんじゃ。全部揃えっと、封印は解けるんじゃけどな。あと、襲いかかってくんで気ぃつけろや」
「聞いてないよ、温羅さん!?」
僕の悲鳴のような声は無視された。輪郭を取り、ぼやけていた体が再生を始める。僕の前に二人の巨漢の鬼が現れた。
「我が名は金閣」
「我が名は銀閣」
「「我らの封印を解きし者よ。汝に敬意を表し、我らが主たるに相応しいか、試させてもらう!!」」
イベント戦闘が発生しました! ※尚、この戦闘からは逃げられません。
ご丁寧に、ログで教えてくれなくていいよ、もう!!
僕は半泣きになりながら、臨戦態勢に入ったのだった。




