表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
278/424

277話 痛みと実地研修

「はぁ、見せるんじゃなかったなぁ」

 僕がげんなりしていると、温羅さんは嬉々として、僕を突き飛ばした。

 ーーーぐぁごぉぉぉおおおおん!!

 うわぁ、眼前に百目小僧ならぬ百八つも顔がある化け物が出てきたよ。人の体全身に顔がついた、奇怪な異形の姿をしている。

 これなら巨鬼を相手している方が気持ち悪くなさそうだなぁと、嫌な気分になる。

「ええか、テルアは透器以外は使用禁止じゃけぇの。鬼術もじゃから。あぁ、それと、あの仮面っぽいのを呼び出すのも禁止じゃ」

 あれを殴って倒せと。え、なに、さっきの負けた仕返し? 温羅さん実は根にもつタイプ? 


 疑問を抱きながらも、肉弾戦の技術を学ぶにはこいつがうってつけじゃから、という理由で、さっきから僕は温羅さんに引き回されて鬼狩りを決行している。

 正直、腕に残る感触がヤバイ。殴れば反動で自分の拳も普通に痛くなるし、それに相手が堅ければ反動も増す。かといって、一撃一撃に力を込めないで倒せるほどやわな相手でもないし、反撃もされる。如何に相手の動きを先読みして、相手の隙を掻い潜り、威力の高い攻撃を撃ち込めるか、全てはそれに掛かってるのだ。おまけに、こちらのリーチは短く間合いは狭い。それらの短所を補いながら戦わねばならず・・・必然的に相手の先読みをしなければ絶対に勝てない仕様となってる。こんな風に縛りのある対戦させる温羅さんが鬼畜過ぎる。


 そりゃ、確かに痛みと危険を与えたら、普通に集中力増すよ! 痛くならないように、必死に考えて、自分の動きに気を配るよ! でも、ここまでやる必要があるわけ!?

 叫び出したい気持ちになりながらも、僕はひたすら相手の攻撃を避けて、拳を撃ち込む。

 撃ち込む度に、攻撃力が増していくことに僕は気づいた。そうか、コンボが成立すると、攻撃力が増していくんだ!!

 その後は、コンボを繋げながら、なんとか僕は相手を倒した。


「あと、二体じゃのぅ。しかし、テルア。動きがなっとらん。倒すのに時間が掛かりすぎじゃ。欠伸が出るほどつまらんかったけぇ」

 温羅さんの辛辣な言葉に僕は唇を噛みしめた。悔しさと情けなさで、顔を上げられない。

 そんな僕に温羅さんから拳が飛んでくる。避けようとしたけど、それは温羅さんが許さなかった。頭が揺さぶられ、左頬に熱と衝撃と痛みが遅れてやってくる。

 痛い。

「拳はこう使うんじゃ。よう覚えとけ」

「・・・・・・教えてくれて、ありがとう、ございます」

 実地で受けた、温羅さんの拳は威力も凄まじいもので、HPが四分の一は消し飛んだ。

「今のダメージは治さんと、次に行くからの」

 厳しい。正直、泣き出して理不尽だとわめき散らしたいけど、それは負けを認めるみたいで悔しい。

 すーはー、すーはー、と息を吸ったり吐いたりして、気持ちを静める。この程度で動揺していてどうする。

 さっきの温羅さんの動きを頭の中で何回も反芻しながら、僕はあることに気づいた。今まで、意識していなかった体重が乗っていた一撃、温羅さんは腰を使っていなかっただろうか。

 考える、考えろ。思考を放棄すれば温羅さんが殴ったことも、無言の中に秘められた教えも無駄になってしまう。

 回数は少ないけど、僕は自分のお手本になれる存在を思い出した。

 そうだ、あの時・・・。

 僕は、温羅さんの後ろについていきながら、その動きをじっと観察していた。

 その視線を、温羅さんは何も言わずに受け止めていた。

 だから、僕は知らなかったけど、温羅さんの前にいた酒呑さんが、後でこっそり温羅さんがすごく上機嫌だったことを教えてくれたのだった。


次→9/27 19時。無理なら21時に更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ