275話 仲裁
「ここまでで、いいんじゃない?」
レガさんの言葉に僕はえ、と驚いた。まだ、北の森の主に挑んでいないけど、レガさんたちは、もう十分と言いたげに困り顔だった。一応、他の三方の主は倒して、残りは北の主だけだってことになって、移動を開始したんだけど。
僕以外の三人の顔色はすこぶる悪い。
ここまでにしときたいという言葉はおそらく本音なのだ。
しまった、ちょっとやり過ぎちゃったかな。僕のわがままに付き合わせちゃったのかも。正直、西の森の主相手にかなり苦戦したし、連戦疲れもあるはずだ。
だから、僕はしかたないのかな、と思った。
「ここで解散しようよ。正直、これ以上は無理」
レガさんの言葉に他二人も苦笑する。
僕は三人とのパーティーを解消した。
「それじゃあ、またね! 森の中で解散しちゃって悪いけど」
「いや、俺たちも了承したしな。ここからなら、俺たちもなんとか帰れるから。えっと、今日はありがとう」
「うん、ありがと・・・」
ドッコーン!!
背後から突如聞こえた破砕音に、僕は振り向いた。そこに、二大怪獣がいた。
いや、正確には怪獣じゃないんだけどね。
片や、大太刀を抜き放ちながら、相手を引き潰そうとする温羅さん。
片や、距離を詰め、刀で応戦する漬け物屋店主。
あれ? なんか、この二人の周囲が次々に叩き潰されたり、すっぱりと切断されたり、燃えたりしてるんだけど。
これ、周囲にいるだけで危ないんじゃ・・・。
「走れっ!!」
僕は大声でレガさんたちに指示した。
その間、僕は三人が逃げる時間を稼ぐために、魔法を連発する。
「あ、師匠。ここにいたんですか」
奥からひょっこりやって来たのは、チャップ、シヴァ、ブラッド、ハイド、ヤマトの魔物組+サイガとナーガだった。
「あ、みんな!! これ、どうなってるの!?」
僕が混乱しながら状況把握に務めようと質問すると、みんなが盛大に目をそらした。
え、なにその反応。ひょっとして、この二人が戦っている原因て、みんな?
「落ち着いてきいてください、師匠。我々も悪気があってやったわけじゃありません。あれは事故です」
「主の耳に入れちまっていいのか? 原因は一応シヴァなんだが」
「シヴァ? 何かやったの?」
シヴァは三つ目に涙を溜めつつ、話してくれた。
それによると。
「じゃあ、話を総合すると。酔った勢いで、あの漬け物屋の主が温羅さんが楽しみにとっといたシヴァ特製のお酒を一滴残らず飲み干して、それに温羅さんがきれたってこと?」
ものすごくつまらない理由だった。いや本人たちにはものすごく重要なことかもしれないけども。
っていうか、すごいな。あの鬼人さん。温羅さんと傍目からはほぼ互角の戦いしてるし。ただの漬け物屋店主じゃなかったんだ。
「・・・・・・喧嘩を止めたいのは山々なんですが、私たちだけで手出しできる領域ではないので、どうしようかと悩んでいたんです」
じぃっと、全員の視線が僕に注がれる。嫌な予感しかしないんだけど。
「念のために聞くけど、僕に、あれを止めろってこと?」
あの、中心に行くほど威力の高い攻撃に晒される、台風の目に飛び込めと?
自殺行為でしかないよ、そんなの!?
「だけど、このままだとまずいみたいだぜ、主。もしも、温羅の旦那が全力出したら、森なんてすぐに火事になっちまう。このままだと我を忘れてそこまでいきそうなんだが」
ヤマトの言葉も頷けるくらい、戦闘は激しい。森の被害がとんでもないことになりそうなのは確定だが、しかし。
「全員、僕を生け贄にする気満々なわけだ。まったく、覚えときなよ」
僕は、透器を着用した。一応、今手持ちの中では一番攻撃力と魔法攻撃力が上がる装備なのだ。バフ系魔法に、さらにはミルカスレーグイも召喚。完全戦闘態勢だ。
「最初から全力、かな」
僕は、水魔法の氷の矢(範囲)を唱えた。数えきれないほどの矢が宙に出現する。それらを一点に集中させ、二人の戦いに割り込む。
「そこまでだよ!!」
今まさに激突しようとした大太刀を氷を纏った右手で、強い風を纏った刀を左手で受け止めた。
炎によるダメージと、風によるダメージが同時に入る。透器はなんとか壊れない。
回復魔法を自身に掛けながら、僕は状態異常回復の魔法である浄化を二人に掛ける。
二人は酔いが醒めたようだ。互いの武器と僕の状態を視界に収めて、慌てて矛を納めてくれる。
はぁ、と僕は大きく息を吐いた。武器を持っていただけにも関わらず、HPが半分は削られた。はた迷惑過ぎる。
「まったく、酔っ払って喧嘩とか、やめてよ!! 僕らプレイヤーも困るんだから!」
僕の抗議に、二人は揃って目をそらしたのだった。
次→ 9/25 19時もしくは21時




