264話 風神様と雷神様は飛び立った。
炎の剣が体を貫き、爆発する。しかし、それさえもただの目眩ましでしかない。僕は、「死肉の漬け物」を敵の口に放り込んだ。
そのまま、離脱。途端、崩折れる敵の様子を冷静に観察して、ピクリとも動かなくなった敵に安堵する。
ピリッ。
僕は危機察知の反応に咄嗟に振り返った。そこにいるのは、温羅さんと、雷神様。ただし、温羅さんからびしばしと危険な気配が伝わってくる。
その表情は、愉悦と狂喜が同時に塗り込められたかのようで、昂っていることが一目でわかった。
僕の戦闘を見ていて、自分も戦いたくなったんだろうか?
できれば、遠慮したい。全力で。
温羅さんと、闘ったって、よほどでない限り、こちらは勝ちを拾えないのだから。確率的に、0,1%あれば良い方だ。
とにかく、やるべきことはやったのだから、もう帰っても良いはず。
「どこに行くんじゃ?」
うわぁ、逃げるのを察していたように肩を捕まれた。逃走不可とか。どれだけ、温羅さんは僕のことを買い被ってるんだろう。
「これからが、本番じゃけぇ」
楽しげに笑うその姿は、武神であるクレストのおじさんにも匹敵する傲岸にして、不敵な姿だった。
お願いしたって逃がしちゃくれないようだ。
僕が死んだ魚の目を向けると、温羅さんが顎をしゃくった。
その先では、僕が倒した敵が姿を変化させたところだった。
「風神!!」
雷神様が風神様に近づく。風神様はぱちぱちと目を瞬かせ、自分に抱きつく雷神様を見下ろし。
「えっと、すまん、雷神。なんか心配かけたみたいだな。俺としては、よくわからん状況だが。とにかく、この島から俺らは出られるんだな?」
「おい! 目を輝かせるな! 我も一緒についていかんと、お前はすぐに問題を起こすだろうが!!」
なんだろう、マサヤと自分を見ているような気分になる。
思えば、マサヤにも色々と苦労かけてるからなぁ。今度なにか恩返ししとこうと僕は決める。
「ありがとう!! そうだ、俺は色んながらくたを集めるのが趣味なんだが、その内の一つをお前にやるよ!」
風神様が、担いだ袋から僕に何かを差し出す。そして、僕の頭をポンポンと撫でた。
「じゃあな! いやっほぉぉおおおお!! 数百年ぶりの空だぁあああ!!」
「待て、風神!! すまない、我も風神についていかないと!! 世話になった!!」
空へと駆け上がっていく風神様と雷神様を僕はポカンと見上げるしかできなかった。
「おうおう、元気じゃのう。さすがは風来坊らじゃ。それで、テルアは何を渡されたんじゃ?」
僕は、渡されたがらくたと称された物を確認してみた。
透器 エーテルカイザー
持ち主以外にはその姿が見えない、特別な物質。打撃武器として使用可能。武器素材の一つ。
本当に、がらくたと言っていいのか迷う品だった。
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