262話 話し合い? (※)
そこは、闇よりも尚暗く、恐ろしいものが立ち込めていた。
城内は静まりかえっており、彼が歩く音だけが回廊に響く。
たとえ、異世界人であっても、この中に入っただけですぐさま命を奪われてしまうだろう。
それこそが、『堕ちた月神ティティベル神』の居城であり、彼の神が住まう瘴気に満ちた場であった。
だが、彼の足取りはしっかりしているし、表情にも余裕がみてとれる。
彼にとっては、ここは危険な場所でなく、姉が住む家くらいの認識なのだから、当たり前かもしれない。
やがて、一際豪奢な扉の前で彼は立ち止まった。その扉が内側から閉じていたので、ばこんと殴り付けて中に入る。
「お邪魔さまー! ティティベル姉、いる!?」
「・・・・・・・・・何しに来たわけ、ロード」
眼帯をした、ゴスロリ衣装のティティベル神が、嫌そうに弟神を出迎えた。
「いやー? 用事なんてないんだけど、今イベントどうなってるのか知りたくってさ。ティティベル姉なら、イベントの様子、覗き見くらい出来るだろと思って。今どんな感じ?」
出された茶菓子を口の中一杯に頬張りながら、訊ねるロードに、ティティベル神は面倒そうに遠見の鏡を渡したのだが。
「? 壊していいの、これ?」
「いいわけないでしょ!」
「あー、じゃあティティベル姉がやった方がいいって。オイラ、魔力の細かい制御苦手だから」
ロード神は、火と光の魔法以外はほとんど失敗する。その腕前を知っているティティベルは、自分の迂闊さに今更ながら気づいた。昔から、この弟の頭の中には悪戯と格闘と、おもしろいこと、仕事のこと以外は詰め込まれていない。
仕方なしにティティベル神が、遠見の鏡を使った。対象は、あの小憎らしい異世界人だったのが非常に気に食わないが、昔の恥ずかしい失敗をしたときの写真をばらまいていいか? などと言われたらやるしかないではないか。
本当に、やりたいことは何がなんでもやる弟である。
「あ、テルアだ! 隣歩いてんのは、誰だろ?」
遠見の鏡に映ったのは、立派に鍛え上げた体躯を布で少し隠した程度の男と、電電太鼓を背負った、明らかに鬼の顔をした存在だった。
残念ながら、会話が聞き取れないがなにかもめているのはわかった。
と、思ったら、突如鏡に巨大な魔物が現れた。
それを一刀で切り伏せる男。
ロードは興奮した。
「強い、強い!! なんだ、あれ!?」
「まさか、あれ、隠しイベントなんじゃ・・・」
ティティベル神は、妹のルテナ神から、聞いていた。今回のイベントでは、主神の気まぐれで隠しイベントがあるらしい。
隠しイベントの条件として、四方の主が一回は倒されていること、復活した鬼神の友好度を一定まで上げること、さらに幸運に見舞われなければ発生しないとのことだったが。
(あり得る! 何にも知らないまま隠しイベントを発生させることもあいつならやりかねない!!)
戦慄する。確か、このイベントの報酬は風神雷神の加護が得られることであり、おまけとして、ランダムに風神雷神が武器をくれるというものだった。
もちろん、武器はランダムであり、高レアな物は早々出ないように調整されてるはずだ。はずだが、テルアにそれが当てはまるかというと、当てはまらない気がしてならない。
「あ、テルアたちが勝った!!」
戦闘を見ているロードは大興奮だが、ティティベル神は切実に祈る。
(どうか、どうか低レアな武器が当たりますように!!)
残念ながら、ティティベル神の祈りは無駄に終わったのであった。
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