26話 修練の塔 1
「着いたぞ」
転移が完了し、役目を遂げたじいちゃんはとある建物を指差した。
僕はその建物を一目見るなり、絶句した。
「たっけぇ〜」
「・・・・・・すごい。こんなの見たことないよ」
マサヤとユミアちゃんがそれぞれ呟く。
修練の塔は、見上げても天辺が見えないほど高い建物だった。塔の建築に使われてる材質は何だろう? 艶々して、あまり凹凸がない。土壁のような色をしているが、およそ繋ぎ目といったものがなかった。
ファンタジーではよくあるのかもしれないけど、こんな不思議建物が目の前にあることに、疑問は尽きない。
僕は、ついじいちゃんの説明も聞かずに、興味本意で塔に触れてしまった。
ぐるり、と視界が反転する。
え?と思ったがもう遅かった。
「うわぁあああああ!?」
僕は、落ちているのか浮かんでいるのかよくわからない感覚に悲鳴を上げながら、わけのわからないまま、見知らぬ場所に放り出されたのだった。
「テルア!?」
「あぁ、触ってしもうたか」
眼前にいた友人の突然の消失に、驚いたのはマサヤとユミアだけだった。
慌てて、テルアがいた場所に近づいてみると、忠告が飛んでくる。
「この塔は、少し変わっておってのう。建物の外壁全てが塔への入口になってるんじゃよ。説明する前に、テルアが触ってしまったのは、儂も予想外じゃったが」
「なんでそんなに落ち着いてるんだ!? テルアが心配じゃないのか!?」
塔に入ってしまったテルアのことを心配するのが先ではないのか。そう思ったマサヤだったが、老人からは驚くべき言葉が返ってきた。
「心配に決まっとるじゃろう」
「ええ!? その態度で!?」
ユミアも驚く。とても、心配しているようには見えない。顔も、態度も。
「まぁ、大丈夫じゃよ。テルアは儂が直々に鍛えとるんじゃ。簡単にはやられんわい。それに・・・」
「それに?」
老人は苦笑していた。
「あやつの運の良さは、本物じゃからのう」
老人は、実感のこもった声で、言い切ったのだった。
「どこだ、ここ?」
ようやく変な感覚もなくなり、僕は、見知らぬ場所に立っていた。
周囲は、先程まで見ていた外壁と同じ壁。違うのは、ここからじゃ空は見えないという点と、風があまり吹かないといった点か。窓があったので、一応外を見てみると、地上は雲に隠れてしまって、確認できなかった。
どうやら、塔の内部に強制的に転移されたらしい。
そこまではわかったのだが。
「ここ、明らかに上層だよね」
地上が見えない高さの塔の上層。先程聞いたじいちゃんの説明を信じるなら、下層から上層に上がるにつれ、魔物の強さは比例して強くなっていくはずだ。
すなわち。
「ここ、強力な魔物がうじゃうじゃ潜んでるんじゃ?」
「ギギィッ」
僕は、嫌な予感に突き動かされながら、ゆっくりと壊れたブリキの人形のように緩慢に首を巡らした。
そこには、ギギィッ、ギギィッと耳障りな音を奏でながら、だらだらと唾液を滴らせ、だらしなく大口を開けた、角の生えた悪魔兵がいたのだった。
悪魔兵Aが現れた!
悪魔兵Bが現れた!
悪魔兵Cが現れた!
悪魔兵Dが現れた!
(中略)
悪魔兵Zが現れた!
悪魔兵兵隊長が現れた!
総勢、27体の魔物に、僕は取り囲まれていたのだった。
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