254話 葛藤(※)
このままで、本当にいいのか?
心の中に抱いた疑念は、そう自分自身に問いかけてきた。
結論は既に出ている。
いいわけがない。自己嫌悪で既にどうにかなりそうなのだから。
諦めれば、楽になれるぞ。
弱い自分の悪魔の声。そう、ここで諦めれば、ただただ、そういうものだったと割り切ることができるだろう。
それが楽な道だと、知っている。
茨が満載に敷き詰められた、痛みと苦しみを覚悟して歩まなければならない道ではない。
遠い、遠すぎる光に憧憬を抱くこともない。
闇で道が見えなくて迷うこともない。
諦めれば、ある程度は楽しくおかしく過ごせるはずだ。
だけど、それは。
したくない。
悔しさも、悲しさも、自己嫌悪も本当は全て。
追いつきたいからだ。
追い付きたくて、追い付けなくて。
それで苦しくてやるせない。
たとえ、距離は近くてもその背中に追い付くのは、とても困難で。諦めたくなるほどに、苦しくて、やるせない気持ちになる。
それでも。
彼は振り返って、自分たちに笑いかけてくるから。
諦めることをしたくないと、何より自分がそう望むから。
無様なままでいたくはない。足手まといのままでいたくはない。
失望していない、彼の期待に応えたい。
そう望み、努力していれば、叶うだろうか? いや、ただの努力では足りない。生易しいものでは、追いすがることさえできない。ならば。
「・・・・・・悪い、俺は行かない。ちょっと用事ができたんでな」
「サイガ?」
「本当に、悪いな」
闘技場まであと少しというところで足を止めたサイガは、申し訳なさそうにテルアに謝った。ナーガがじっと、サイガを見つめる。何か思うところがあったのか、ナーガもサイガについてくると言う。
驚いたのは、サイガの方だ。今から自分が行くのは、死地と言っても過言ではない場所だ。
やめとけ、とナーガを止めようとするが、ナーガは首を振らない。
困り果てたサイガだが、こうしてる間の時間ももったいない。
ぶつくさ言いながらも、サイガはナーガと行くことになったのだった。




