250話 友としての願い(※)
やめろ。
頼むから、やめてくれ!
言葉を発するには遠すぎる。届かないことに苛立ちを抑えきれないマサヤは、行動に打って出た。
客席から、リングの上へと飛び出したのである。途中の客席を踏み台に、降りて、テルアのすぐ側へと着地する。HPが半分以上削られたが、そんな些細な問題など無視した。
「もう、やめろ、テルア!!」
「えっ!? マサヤ!?」
テルアは驚きながらも、動きを止められないようだ。だが、そんなことはどうでもいい。
「このアホ! バカ、マヌケ、スカポンタンの考えなしがぁぁあああああ!」
気づけば、マサヤは泣いていた。こんなところまで忠実に再現しなくていいと思う。がくがくユサユサと、テルアを締め上げながら揺さぶってしまう。
「なんで、こんなバカな真似するんだよ!? また、あんなことになったらどうする気だよ!? 俺は・・・!」
言ってることが支離滅裂で滅茶苦茶だ。知ってる。わかってる。
あの事件はきっかけはテルアのせいでも、テルアにすべての責任があるわけではない事くらい。
でも、その後に起きたのは理不尽としか言えない、悪夢のような出来事で。
あの悪夢が再び起きたら、マサヤ自身が嫌なのだ。
あの悪夢の再来は、なんとしても防ぎたいのに。他ならぬテルアがまったく自重をしない。
マサヤは恐れているのだ。悪夢の再来を。悪夢が止められなかった自分を。
そして、その悪夢によって深く心を傷つけられたテルアのことを、心配している。
「頼むから、もう、やめてくれ」
絞り出すような声に、テルアは困ったように頬をかき、わかったよ、と返した。
「温羅さん、僕の敗けです」
「・・・・・・・・・。」
テルアの対戦相手である温羅は不満げだった。それでも、ひとまず大太刀を収めた。
「決着はまだついてない。わーは、納得してないけぇの」
「はい、わかりました」
それでも、理解しているはずだ。自分が、ごねようと、もうテルアは戦いには応じないということを。
「機会があったら、また再戦を」
「約束じゃからな」
そして、長々と続いたエクストラバトルは、テルアの敗北で幕を閉じたのだった。




