243話 エクストラバトル 5
「あー、やっぱりこんなもんか」
ついつい、嘆息してしまうのは、闘技場の試合のレベルがあまりにも低すぎたからだ。こんなに低レベルでは話にならない。一方的な展開に、やられ役と称しても良いプレイヤー。だから。大蜘蛛がやられたのも当然だと、そう思ったのだが。
その直後、リングの中央で変化があった。
「!? なんだ!?」
リング中央に佇むプレイヤーから目がそらせなくなった。両腕から、黒い炎が吹き上がっている。
「なんだ、あれは・・・」
その表情が凍りついている。腕とは逆に、その両足は金色の炎に包まれている。
視界からプレイヤーが消えた。
消えたとしか表現ができない。突如、温羅の背後に現れたプレイヤーが拳を振るう。
その拳を受け止めた温羅の表情が痛みに歪む。何をした!? あのプレイヤーは一体・・・。
「・・・まさか、『魔光の王』」
近くにいた誰かがぽつりとこぼした。誰が呟いたか、周囲を見渡してもわからない。わからないがしかし。もはや試合は一方的なものではなくなったことを、この時、観客の一人は悟ったのだった。
「なんじゃ、それは」
ハイドが温羅に刺された後、テルアに異変が起きた。凍りついた表情の両目の奥では、憤怒の炎がたぎるかのようだ。
すぐさま大太刀を抜いて迎撃体制を取るほどに、その変化は温羅にまずいものだと直感させた。
そして、その直感は正しい。
突如、視界から姿を消したテルアが現れたのは、温羅の背後だ。
大太刀を振るう暇はなく、柄から手を離して、小さな拳を受け止めた。受け止めた手に痛みと痺れが走る。
先程受けたシヴァの薬がまだ効いているとはいえ、温羅は肉弾戦に特化している。生半可な攻撃では、痛みを感じたりはしない。
ぐぐっと拳を押し込まれそうになり、慌てて足をふんばり、相手の力を受け止めるが、テルアは温羅の体を足場に、受け止められた腕をつかんでいた肘に蹴りを叩き込んだ。
思わず温羅は手を離してしまう。ぐぎっ、と肘から嫌な音が聞こえた。
「おんしは、おんしは何者なんじゃ!?」
「・・・・・・・・・。」
テルアは答えない。
怒りに燃えた瞳で、敵を見据えるだけだ。
「まさか、おんしは、他の神の眷属じゃったのか!?」
「どうでもいいだろ、そんなこと。ハイドにやった分の借りはきっちり返す」
「!!」
テルアが、炎を纏ってからの動きは最初とはまるで違った。速さは格段に上がり、鋭さは比較するのも馬鹿馬鹿しいほどだ。遊んでいたわけではない。ただ、温羅は測り間違えていたのだ。テルアの力を。様子見していたのは、温羅だけではなく、テルアもだった。
テルアの方も奥の手をまだ使っておらず、力を温存していたのだ。そして、温羅は唐突に思い出す。
テルア・カイシ・クレスト。
(最初から、名乗っておったんじゃな、おんしは)
ここから海を渡った大陸に住まうクレスト神の名を、温羅は聞いたことがあった。
クレスト神。それは、武神の名前だったはずだ。それを名乗ることを許されるとは、それだけの力を有するということ。
なめていい相手ではない。
身をもってそれを思い知った温羅も、大太刀に力を流す。大太刀の色が赤からオレンジ、白、青と変化する。
「わーも出し惜しみはせん。こいやぁああああ!!」
温羅が試合が始まってから初めて本気になったのだった。
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