242話 最初から知っていたのは (※)
すみません。バトルは次回にて。
「なんじゃ、いきなり呼び出しおって」
不思議そうに、魔神ジャスティスはやって来た。呼び出したのは、筋肉ムキムキの男、武神クレストである。
「あー、いや。ちょっとな。じいさんは、あいつを、テルアをどう思ってるんだ?」
クレスト神の問いかけに、魔神ジャスティスはきっぱりと答える。
「可愛い儂の孫」
「思い入れが強いのは良くわかった。俺もあいつに関しては弟子とか思ってるところがあるくらいだ。じいさんのことを否定はしねぇ。ただな、ちょっと気になることに気づいちまってよ。じいさんのプログラミングの開発者の中に、イトウって名前がねぇか?」
「あるが? それがどうかしたかいの?」
魔神ジャスティスは武神クレストの言いたいことがわからずに、首を傾げる。すっと、クレスト神が目を細めた。
「確かめたんだが、あいつに肩入れしてる連中は、全員そのイトウって開発者が関わってるみたいなんだよ。きな臭くはないか」
「・・・・・・儂らがテルアに構うことと、無関係ではないと、お主は言いたいのか?」
だって、おかしいだろ、と武神クレストは訴える。神が一目見て気に入るプレイヤーなど、いることはほとんどない。
ほとんどないだけで、たまにいることはいる。
だが、それが何回も重なればどうだ? おかしいのではないか?
本当に偶然か?
そんな疑心を抱いてしまうのは、仕方がないと思うのだ。
武神クレストは、誰よりも勘がいい。些細な違和感なので、最初は放っておいたがそうも言ってられなくなりつつある。違和感は加速度的に膨れ上がっている。特に、テルアを眷属としてから、顕著に違和感が強くなった。何かある。
クレスト神だけでは、手に負えないような秘密があると、踏んだのだ。
だから、彼は協力を求めたのだが。
残念ながら、ロード神には断られており、クク神にも城の管理で忙しいと断られた。
だから、頼みの綱は魔神ジャスティスだった。これで断られたら、あとは虱つぶしに聞いていかなければならないな、と思いながら、ジャスティス神の返答を待つ。
「なんじゃ、そんなことか」
ジャスティス神はあきれた顔をしている。やはり、ただの気の迷いと笑い飛ばされるのか。そう、身構えたクレスト神だったが。
「お主には悪いが、儂は最初から、あやつのことは誰よりも知っとったわい」
続いた魔神ジャスティスの言葉に息をのみ瞠目したのだった。
「どういうことだ!?」
「どうもこうも。儂は知っとっただけじゃ。お主の読み通り、おそらくそれをやったのはイトウじゃがの。だが、儂は知っとっただけで、本当はテルアに関わるつもりはなかった」
「え?」
「儂が与えられた情報は、非常に偏ったものでな。テルアと過ごしてみて、わかったわい。あの情報には嘘が混じっている、とな。どこからどこまでが嘘なのか、今精査中なんじゃ。邪魔せんでほしい」
それだけ言って踵を返そうとする魔神ジャスティスに、武神クレストはいきり立った。思わず、魔神ジャスティスの襟首をつかみ上げてしまう。
「教えろ、ジャスティス!! お前が知ってる情報ってのは何だ!? お前は何を知っていやがる!?」
魔神ジャスティスは無言を貫く。
「答えろ!」
「クレスト神よ。時に、無知であることが、隔たりをなくすこともあるんじゃよ。知らない方がよいこともある。儂が知ってるのは、そういう情報じゃ。精査中と言ったじゃろ? せめて、儂が精査を終えるまでは、待ってくれんかの」
退く気はない、とその目が語っている。ここで、魔神ジャスティスと一戦を交えても、この男はけしてしゃべらないだろう。それを悟った武神クレストは、手を緩めた。
「精査が終わったら、話すんだな?」
「あぁ、そうじゃな。精査が終われば、お主にも話す。確証が持てぬまま、話せぬ内容なんじゃ。理解してほしい」
「・・・・・・わかった」
クレスト神はぎゅっと拳を握りしめた。
魔神ジャスティスがここまで話すことを拒否するのだ。相当な内容だろう。どんな内容か想像もつかないが。
ただ。
「結局、俺らは役割を演じるしかないってわけか。全て作ったやつらの掌の上だ」
その呟きには、虚しさが込められていた。
次→ 21時
 




