233話 騒ぎ(※)
鈴音は四人で歩いていた。異界人たちから、たまに畏怖やら、恨みやらの視線を頂戴するのだが、鈴音が艶然と微笑むだけで目をそらされる。
鈴音と一緒に歩いているのは、秋菜と六花、鉄斎だ。
たとえ子どもを連れ歩いていても、二人の実力者が目を光らせてるので大事には発展しない。
「それにしても、ずいぶんと発展しちまったねぇ。うちよりもこっちの方が繁栄しちまってるじゃないか」
「まぁ、仕方なかろうて。しかし、あやつらは本当にたいしたものじゃのう」
二人の話題の主たちは魔物でありながら、このすでに町と呼べるものを築き上げた立役者だ。
彼らは、誰かに仕えているらしく、彼らが主と呼ぶ存在には非常に興味をそそられる。
「どんな人物なんだろうねぇ。でも、あいつらが心から慕うくらいだから、きっと出来た人物なんだろうね」
「あ、お母さん! あっちのお店みてみたい!」
六花が腕にじゃれつきながら、鈴音にねだる。
鈴音が微笑みながら、そちらに向かおうとして、気づいた。
「伏せな!!」
鈴音は娘二人を抱えたまま、地面に無理矢理伏せさせた。
鉄斎が、年に似合わない素早さで、鬼術を操る。
盛り上がった土が壁となり、飛来した火球を防いだ。
轟音が響く。
まずい、と鉄斎と鈴音は同時に思った。鉄斎と鈴音にあまり余裕はない。何故なら、今は秋菜と六花がいるからだ。ただし、ここは魔物組のお膝元だ。そんなところで騒ぎを起こして、無事で済むはずがない。
すぐさま、知らせが届き誰かが騒ぎを収めに来るはずだという予想は立つが、ぞろぞろと鈴音や鉄斎を囲む一団は思ったより、数が多い。
彼らが来るまでなんとかもたせなければならないが、これだけの人数差と、側に他の異界人や鬼人がいるので、大きな鬼術や、広範囲高出力の攻撃を使うのは躊躇われる。
(ちっ。あたしとしたことが、油断しちまったね)
迂闊なことをしてしまったことを反省するが、今はその事は後回しにする。周囲には、火球の攻撃に巻き込まれてしまった異界人が怒りを顕にして、攻撃した一団に文句を言うが、すぐに倒されて姿が消えてしまった。
このままでは、この場で乱闘にまで発展してしまう。それはよろしくない。
緊張感が高まる中、不思議とその声がよく響いた。
「やめなよ。その鬼女にやられた恨みをこんなところで晴らすつもり? ここにはイベントを楽しみにして集まった人たちがいるんだから、いくらチャンスだからって乱闘なんて起こしたら、恨みをかうよ? 僕も闘技場イベントの参加者だから黙って見過ごすわけにはいかないしさ」
あきれたと言わんばかりの声音に、聞き覚えはない。声を発した人物は、背中におかしな存在を張りつけたまま、悠然と集団と鈴音との間に割り込んだ。
それは、一人の少年だった。
心底、面倒という顔をしながらも油断は一切ないようだ。武器を手にしていることからもそれがわかる。鈴音も、鉄斎も目を見開いた。この少年は、自分たちよりも強いと、本能で悟る。
「あと、僕、店を見て回ってる最中なんだよね。だから、邪魔しないでくれる?騒ぎはよそでやってよ」
赤髪の少年は、堂々と自分勝手な言い分を並べ立てるのだった。
次→7/26 19時




