228話 テスト終了!!
キーンコーンカーンコーン。
「はい、そこまで。テストを回収します」
監督役の先生が、後ろからテストの答案用紙を回収していくよう指示する。
それと同時に教室のあちこちから歓声が上がるのは仕方がないと思う。ようやく、中間テストが終わったのだ。解放感に浸りたくもなる。
「終わったぁあああ!」
当然、僕のテンションも高い。よし、これで今日は「ファンタジーライフ」に、ログインできる!
まだ、掃除があるが、そんなに大した問題じゃない。僕の心は浮き立つ。
早く、みんなに会いたいなぁ。
この一週間はかなり長かった。
イベントはイベントで気になるしね。
「輝ー。お前の担当どこだー?」
若干眠そうにしながら、正也が近寄ってきた。
「僕は普通に教室担当。正也は?」
「俺? 俺は、あっちの音楽室。選択取ってないのにな」
苦笑しつつ、正也は自分の水筒から温かいお茶を注いで飲む。
「正也、今日部活だよね。今日は「ファンタジーライフ」にログインするの?」
「ログインできそうならな。つっても、一週間、短時間の基礎練ばっかりで鈍ってるからなぁ。帰ったら即、寝るかも」
「だよねー。じゃあ、今日もソロかなぁ」
ゲーム内でソロ活動が多いからあんまり気にしないけど、誰かと組んだ方が有利かな? そこら辺も、ログインしたら情報収集しないといけないかもしれない。
まぁ、みんなもイベントには参加するって言ってたし。みんなから情報が入手できればそれでいいかな。
あ、でもランキング百位の課題があったんだ。うわぁ。
思わず嘆息する。
ミルカスレーグイをしばらく召喚したままにして、無双しようかな。
うん、そうしよう。
あ、でもまずは勘を取り戻さないと。
まぁ、できる限り頑張ろう。幸い今日を含めてなんとか三日あるんだし。
しばらくゲーム三昧しても怒られないはずだ。
僕はついつい頬が緩んだまま、掃除に精を出すのだった。
帰宅すると、テーブルの上に僕のVRゴーグルが置かれてる。
やった、さすが母さん!
すぐにそのゴーグルを部屋に持ってって、素早く着替え、ルンルン気分で、僕はゲームにログインした。
「えーっと、あれ? えーっと」
なんだろう、これ。アールサンの街の水晶のところに立って、水晶に触れたまでは良かった。そうしたら、この村に着いた。そこまではいい。そこまではいいんだけども。
「村が空っぽ?」
店は全店臨時休業の張り紙が張られており、人もいない。イベントには鬼人も出てくるって書かれていたはずなんだけど。
それに村のすぐ近くにある建物の方からすごい歓声が上がってる。
お祭りでもやってるのかな?
僕は、一応ミルカスレーグイを召喚してから、建物の方へとやって来た。
ミルカスレーグイは僕の背中におぶさってるから、妙に目立つけど、まぁいいや。
ミルカスレーグイが、僕の髪の毛を引っ張って、なにかを僕に見せる。
それはチラシだった。
「へぇ、ランキングポイント争奪戦か」
僕はチラシに書かれていたイベントに興味を覚えた。10時から22時って書かれてるし、今から行ったら飛び入り参加もできそうだ。
「参加してみよっか、ミルカスレーグイ?」
僕の言葉に、ミルカスレーグイは応えるように口許を歪ませた。
僕は早速受付を済ませて、番号札をもらった。結構、出番が早そうだ。ミルカスレーグイのおかげかな?
なんだか、ワクワクする。このゲームでは、あんまり、僕って対人戦やってなかったから、楽しみだなぁ。
全力出していいんだよね。あ、新しく作った魔法を試してみるのもいいかなぁ。
僕は自分のことに精一杯で、周囲でどよめきが、起きたことに全然気づかなかった。
「嘘だろ!?」
「いや、そうらしい。なんでも、あの鬼人が、出場するって言い出してきかなかったから、管理者たちも困ったらしくて。結局押しきられたそうだ」
「無理ムリムリムリっ!!あれと戦うとか、どんな苦行だよ!?」
「あ、でも。さっき飛び入りで参加表明したやつが、あの鬼人と戦うとか」
あれ? なんか、雲行きが怪しくない?それに、さっき飛び入り参加することに決めたのって、まさか僕のこと?
「おい、噂の奴が来たぜ!」
僕は振り向いて、あぁ、なるほどと納得する。
そこに立っていたのは、筋骨逞しい体躯を惜しげもなく晒した、周囲を威圧する空気を苦もなく纏った鬼人だった。
黒髪に一本だけ生えた銀の角。
これは、クレストのおじさんにも匹敵するね。
僕がついそちらを凝視していると、視線に感づいたのか、ふっと僕の方を振り向いた。途端、僕の周囲にいた全員が顔をそらす。僕は特に顔をそらすことをしなかったから、悪目立ちしてしまった。
おかげで、思いきり目が合ってしまった。
黄金色の瞳がまっすぐに僕を見据えてくる。
誰もがひれ伏したくなる程の力強さが宿っている。
僕は笑った。
それに合わせて、名も知らない鬼人もふっと笑う。
そのまま鬼人の側を通りすぎた。
その先に造られた闘技場があるからだ。
じっと背後から圧力さえ伴う視線が追ってきたが、僕は無視して闘技場まで歩いたのだった。




