223話 逆鱗(※)
ーーーしぶといなぁ。どれだけ回復薬持ってるの?
シヴァが嫌そうに女性プレイヤーをハイドの上から睨み付ける。SPとHP回復薬で回復する女性プレイヤーの魔法の威力と防御力はかなりのもので、致命傷を負わせてはいるものの、なかなか止めがさせず、その間に回復されて、膠着状態に陥っていた。苛つきながらも、辛うじてまだこの時は全員冷静さを保っていた。
ーーーところで、どうして私たちを狙うの? 他に制しやすい相手は幾らでもいるでしょう。
ハイドの問いに、女性プレイヤーが笑みを深めた。
「だって、あんたたちをまとめて倒せば、イベランキングのスコアのポイントが奪えるんだもの。あたしたち以外にも、狙ってる輩は多いと思うけど?」
女性プレイヤーは気づかなかった。自分の言葉が、彼らの逆鱗に触れたことを。
全員の目付きが変化した。
ぞくり、と本能的な何かが、彼らの変化をいち早く察知したが、もはや、時既に遅し。
ハイド&シヴァ、ブラッドの思考が一つにまとまる。
ーーーそれ、僕らの主に害をなすことと一緒だよね? 死ぬよりも辛い目に遭わせてあげるよ。
ーーー反撃に来る気も起きないほどに・・・潰す。
「ギィィィイ(許さない)!!」
本気になった三人は、出し惜しみをやめることにした。相手がどれだけアイテムを持っていようが、関係ない。必ず倒す。彼らにとって、主であるテルアは絶対の存在だ。自分よりも尊ぶべき存在、尊重すべき存在なのだ。
その存在の敵になるのであれば、何人たりとも許さない。
魔物は、人間よりも純粋な存在だ。一心に主を思う、健気で一途な部分を多かれ少なかれ持っている。
計り間違えたのは、女性プレイヤーだった。
三人の醸し出す迫力に、思わず体が硬直してしまう。
その隙を逃さずに、ブラッドが女性プレイヤーの眼前に瞬間移動かと思う速さで移動した。
そのまま、女性プレイヤーの首筋に噛みつく。
「ぐっ! あっ!?」
ブラッドの牙を受けてしまうと、高い確率で毒を受けてしまう。女性プレイヤーも例には漏れなかった。
女性プレイヤーは基本的には死ににくくなるようなHP増幅と物理防御力高めの装備をメインにしていたため、状態異常には弱かったのだ。
至近距離でさらに最大音量の超音波を浴びせる。一時的に敏捷を著しく下げられた女性プレイヤーに、ハイドが大量の鋼糸を吐き出す。身動きがとれなくなったが、女性プレイヤーは準備していた魔法で、鋼糸を燃やす。鋼の強度を誇るとはいえ、糸なのだ。火には弱い。そう考えてのことだが、ここで誤算が起きる。
鋼糸は、あまりに燃えやすかったのだ。そのため、火傷の継続ダメージが女性プレイヤーに、入ってしまう。
すぐにアイテムで回復しようとする女性プレイヤーのタイミングを見計らって、シヴァがそれを投げた。
薬で回復しようと開けた口に、飛び込んだそれは小さなものだったが、その効果は絶大だった。
たったの一欠けを飲み込んだだけで、女性プレイヤーがあっけなく死になってしまう。
それは多大なダメージを相手に引き起こし、九十九時間の復活を防ぐ効果があるのだ。さらに、猛毒、気絶、眠り、怒り、ステータスダウンと状態異常のオンパレードだ。こちらは倍の百九十八時間続く。すなわち、彼女が復活できるのはイベント終了後ということになる。
ーーーちょっと生温すぎたかな? きちんと生け捕りにして、チャップに悪夢みせる魔法掛けてもらえばよかったかも。
ーーーそれは、無理だと思うわ。あまりにチャップに失礼よ。八つ裂きにしてもしたりないくらい激怒するでしょうし。
「ギギィ。(でも、さっき何投げたの?)」
ブラッドの疑問に、シヴァは何でもないように、死肉の漬け物、と答えた。
酒呑が作った例のブツである。
なるほど、と二人は納得したのだった。道理で魔神ジャスティスが回収を命じるわけである。
ちなみに一欠けでこれなので、小皿一杯分を食せば、どうなるのだろうと物騒なことを考えるシヴァだった。
次→8/19 19時 すみません、夏バテなっとります。




