218話 イベント五日目 8(※)
「おい、チャップ。何を一人でのんびりしてやがる」
「あぁ、サイガ。私のこと、気づいてたんですね。ただ、あそこからみんなを引き離しただけですから。怒らないでください」
苦笑するチャップの前には、鉄斎がいた。サイガは納得できなかった。自分一人だけすごく貧乏くじを引かされた気がする。
「まぁ、命がけの酒飲み勝負でしたから、私に怒りを覚えるのはしかたないですよ。私は気絶したもの達を安全なところまで運ぶぐらいしかしてませんしね。サイガ、本当にお疲れ様です」
「ねぎらいありがとうよ。なぁ、じいさん。聞きたいことがある。昔、恋人か仲間かを選んだ鬼人がいたのか?」
サイガはあの鬼人がどうしても気になってしまった。少し狂気を含みながら、孤独だった、あの鬼人。あんな風になるきっかけは、一体なんだったのだろう。仲間に裏切られたのか、それとも恋人と死に別れたのか。
同情ではなかった。そんな軽い気持ちではない。
だから、知りたくなったのだ。あの少年の過去に何があったのかを。
「そうじゃな。儂らの間に言い伝えられてることで良いなら、教えられるが」
「頼む」
「むかーし。むかし。その昔。この島では、儂らのような鬼人族ではなく、鬼神族が治めておった。その鬼神族は、性格が残忍かつ非道な輩でな。儂らは、彼らから離れて暮らしておった。その中でも、特に残忍な性質を持つ、鬼がおった。名は酒呑。腕を一振りするだけで樹木を吹き飛ばし、その戦闘力はとんでもなかった。そんな酒呑が、ある日水浴びをする一人の女の鬼人に心を奪われた。その女の鬼人は、もう既に結婚しておったが、そんなことを知らない酒呑は女を口説き続けた。女は首を縦には降らず、、段々と酒呑も焦れてきた。そんな時じゃ。女の夫が、鬼神族になぶり殺された。酒呑は関わっておらなんだが、女は酒呑を疑った。だから、酒呑に会いに行き、そこで鬼神族が女の鬼人に狼藉を働こうとしたんじゃよ。後はもう悲惨の一言じゃ。女に狼藉を働こうとしたものすべてを、酒呑は殺したが、女は全て酒呑の差し金だと思った。女は酒呑の前で首をかききり、息を引き取った。酒呑の心情としては、やるせなかったじゃろうな。故に狂った。狂った酒呑は儂らの先祖によって、倒されたと言われておるが、それ以降、百年の周期で、酒呑は甦るようになった」
「・・・・・・・・・。」
「酒呑は強い。それこそ、洒落にはならんほどにな。だから、誰も酒呑には近づくなとされておる」
「だから、独りなのか」
サイガは納得した。恋人を選んでも、報われなかった酒呑。あの時、感じた違和感は、酒呑の感情の揺れに寄るものなのだろう。
「哀れじゃよ。見ていてもな。心を壊してしまうほどに、あやつは胸を痛めたのじゃろうて。これ以上、酒呑には近寄らないことをおすすめする。あれは、誰かの手に負えるものではない」
サイガは何も言えなかった。ただ、酒呑のことがさらに気になるようになってしまった。
鉄斎の忠告はもはや遅すぎた。それに気づいたときには、全員がその事を実感することになるのだった。




