217話 イベント五日目 7 (※)
すみません。21時分書けなかったので、明日8時に投稿します。
(ちっ。やっぱりこいつ、底無しかよ)
サイガは杯にシヴァ作成のお酒を注ぎながら、たぷたぷになった腹をさすった。いくら酒好きであっても、嫌になるくらいの量を既に飲んでいる。
シヴァ作成のお酒は、意外と度数が高く、こんな風に浴びるほど呑むのは体に悪いだろうし、酒に弱いものならば何度も倒れているだろう。
サイガが酩酊しないのは、チャップが作ってくれたお守りがあるからだった。
サイガは、かなり酒に強く、それ故鬼人たちから飲みに誘われることが多いのだ。鬼人たちは絡み酒で、サイガに飲ませまくる。そのため、二日酔いで顔を青くしているサイガを見かねて、チャップが酔い止めの木製のお守りを作ってくれた。それを装備しているため、負けるとは思っていないが、それでも今まで相手をした鬼人の誰よりも眼前の少年は酒に強かった。
「おいしいねぇ。お酒を呑んだのは久しぶりだ♪ あ、そこの漬け物食べる?」
「いや、やめとく。酒の味をとことん楽しみたいからな」
サイガは、少年の背後にある漬け物を漬けたという甕からヤバイものをひしひしと感じ取っていた。あれは口にしたくない、絶対に。
(それよりもこいつ、どうなってんだ? シヴァの薬が全然効かねぇ)
シヴァが作戦会議中に蓋を開けて阿鼻叫喚を作り出したあの薬は、鬼人によく効く麻痺薬だった。それを少量酒に混ぜながら、飲ませているのだが、なかなか効かない。段々と焦れてくる。
(薬が効かないのはなぜだ? 何故、効かないんだ?)
サイガはじっと観察を続ける。このままでは、先にお酒の方が切れてしまうだろう。
サイガはそれでも、観察を続ける。ここでサイガがいなくなれば、相手がどう出るか、わかったものではない。シヴァたちに何かをするかもしれない。なので、酒盛りは静かに続いていく。
「ねぇ? 君、そのままだと酔わないよねぇ? どうしてぇ、酒飲み勝負なんて言い出したのぉ?」
ばれていることに、サイガは一瞬どきりとした。
だが、余裕の笑みでかわす。
「何のことだ? 言ってる意味がよくわからねぇな」
「ふぅん、そう? なんでさぁ、そいつらを庇うの? 君に何か得でもある?」
(? 何か、違和感が・・・)
何でもない風に問いかけられているが、何故だろうか。ほんの少し、サイガは違和感を感じた。不思議そうというよりも、僅かにその声には憧憬が込められていたからだろうか。
「仲間だからな。仲間を大事にしたいと思うのは、当然だろ?」
「仲間・・・・・・裏切られても?」
気づけば杯は空になっていた。底光りする双眸がサイガを捕らえる。
サイガは静かに答えた。
「裏切られた。そう思うってことは、それだけそいつらのことを信じてたってことじゃねぇのか。本当に関係のないやつが何しようが、俺は面倒とかウザイとしか思わないからな」
「・・・・・・・・・。」
「お前がどう思うかは知らん。俺の意見だからな」
「ねぇ、君はさ、危機に陥った仲間と恋人だったら、どっちを取る?」
「その時になってみないとわからねぇな。そういう状況に置かれたことがないから。ただ、想像するのなら。どっちを選んでも、後悔するだろう。それだけは言える」
「・・・・・・そっか」
少年はこてん、と横になった。すーすーと寝息が聞こえ始める。ようやく、酔い潰すことができたようだ。
「お前は、選んだのか? 恋人か、仲間を」
サイガの問いは、夜空に溶けて消えた。
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