211話 イベント五日目 2 (※)
「んー? んー、ん?」
くるりと樹上で回転する大きな影。それは、一人の鬼人だった。浅黒い肌に、額から伸びた角は一本だけ。だが、その角は銀色をしていた。身に帯びているのは赤い布の腰巻きと、大太刀、そして首から下げた白い石飾りのみだ。だが、それだけでも彼の肉体はしなやかな筋肉に覆われた大柄な体躯なので、十分である。黒髪に黄金の目が、ふっと緩んだ。
「ありり? 寝てたかー? わー(自分)も年か? あ、でも、わーの場合、もう何歳かわからんかったわ」
あはははは!と笑う鬼人は快活だった。だが、不意にその黄金の目が細まる。血の臭いを嗅ぎ付けたからだ。
「嫌な臭いじゃ。わーの嫌いな臭いやな。こんな臭いを発散させるのは、誰じゃ?」
その体から発散される、威圧など生ぬるいと言える程の鬼気。
誰もがその鬼気の前には、膝をつくことだろう。そう思うほどのものだった。
体を引き戻すと、起き上がり、彼はとん、と樹を蹴った。体重を感じさせない、身のこなし。舞い上がる。そのまま、空を蹴り移動する様は異常だった。
その途中、彼の優れた嗅覚は、とてもいい匂いを嗅ぎ付けた。
「これは、わーの好きな酒!? うっほ、しかも、こりゃ上玉だ!」
すぐさま、方向転換する。お酒は大、大、大好物だ。
ひゅん、ひゅんと、障害物がないぶん、地を行くよりも早く、その鬼人は空を駆けて、目的地に到着した。最初の血の臭いなど、既に頭にない。
「おう、酒の匂いはここからじゃったか!」
地に降り立った鬼人を前に、唖然としたのは、有楽月、獅子南、明石だった。
空から急に降り立った鬼人に、有楽月たちはびっくりした。
だが、鬼人は気にする風もなく、三人の持つ酒瓶に、目が釘付けになっている。
「あー、あの。飲む、か?」
あまりに酒瓶に熱視線を注ぐ鬼人に、有楽月は思わず勧めてしまう。
「わーも飲んでいいのか!? ありがたい!あ、酒盛り中なら、わーも混ざる!」
その後、得たいの知れない鬼人が隠し持っていた酒瓶によって、三人は朝まで飲まされ、翌朝二日酔いで動けなくなったところを、ナーガに発見されて、酔い止めの薬をヤマトに届けてもらったのだった。
次→ 21時




