210話 イベント五日目 1 (※)
イベント五日目。夕刻。シヴァたちが住み着いている、もはや長者屋敷と呼んでも差し支えないほどに大きくなった建物に、獅子南と明石は来ていた。
「おーい、来たぞー。酒売ってくれー!」
「獅子南。そんなぞんざいに呼ばなくても・・・」
適当な獅子南にあきれる明石。二日目の夜に、スレイたちの伝言を聞いて、慌てて長である有楽月のところへと戻ったが、事情を説明するのに苦労したのと、手土産の一つくらいはと思ってこっそり拝借していたシヴァ特製のお酒を渡したことで、お説教はなんとか免れた。
だが、そのお酒が気に入った有楽月に度々買いに行くよう言いつけられることが増えた。まぁ、おこぼれに預かれるので、彼らとしても文句はないが。
その時、地面が揺れた。
「おー・・・げっ!?」
獅子南と明石は慌てて、地面に体を伏せる。その眼前で土が盛り上がり大きな鬼の姿を取った。
「巨鬼!? なんでこんなところに! 倒されたんじゃなかったのか!?」
「そ、そんなことより逃げないと、獅子南!」
巨鬼など、二人きりで相手にできるものではない。早く村に知らせて応援を呼んでもらわなければ。そして、シヴァやヤマトたちの安否も確認できていない。
二人が額に冷や汗を流しながら、撤退をどうするか話していると。
「ん? なんだ、お前らか。また、シヴァのお酒を買いに来たのか?」
「は? え?」
キョロキョロと辺りを見渡すが、人影らしきものはない。話し掛けた存在は、二人に自分の位置を告げた。
「ここだって。巨鬼の頭のとこ」
巨鬼の頭の上から風魔法を用いながら、話しかけてきたのは、ナーガだった。
はぁ!?と、二人はあんぐりと大口を開いて間抜け面をさらしてしまう。
「な、なんで! なんでそんなとこにいるんだよ!?」
「なんでって、弓の練習。これくらい高さがあれば、南どころか西まで見えるから」
巨鬼を便利な高台に利用するということ自体がまずあり得ないのだが。
そもそも、森の主は倒したらそのまま消えてしまうのが毎年恒例だ。それなのに、こんな場所にいるのがまず信じられない。
ナーガは、巨鬼に降ろしてくれるよう頼むと、すぐに巨鬼の手が頭まで来た。その手に乗って、地上に降ろしてもらう。高いところは、恐怖のホネッココースターに乗せられたことのあるナーガとしては慣れっこになっていたし、そもそも弓の長所を活かすならば相手よりも高所を取った方が有利だ。なので、ナーガは巨鬼の頭の上に乗ることにあまり恐怖は感じなかった。
ちなみに最近は、スキルと風魔法も駆使した、超長距離射撃で仕留めた獲物を、サイガが森までひとっ走り行って担いで戻ってくるのが夕食の材料集めの一環となりつつあったりする。サイガの場合、獲物がどこに落ちたかは、ナーガの射線から割り出せ、尚且つ素材が大きくても一人で持って帰ってくることもでき、本人の鍛練のためにもそうしているのだ。
他にも、南の主だったプレーリードックがチャップ、ハイド、ブラッドの三人組の相手をしていたり、鬼蜘蛛とシヴァが新型の毒薬の開発に精を出したりしている。
「もう、彼らに常識を問うことはやめましょう。でないとこちらの身がもたないみたいです」
たった数日の付き合いで、数えきれないほどのつっこみをしてきた明石は、もはやつっこみを投げ出した。代わりに、獅子南がわめき散らす。
「諦めんな、明石! 異常だから! この光景、異常だから! そもそもなんで森の主がここにいて、あいつらの言うこと素直に聞いてんの!?」
「あぁ、それね。どうも、彼らは魔物だからか、魔物と仲良くなりやすいみたいでさ。一緒に来る?とかいう軽い誘いに、すごい勢いであいつらが頷いてね。それでこの有り様ってわけ。僕らの方も聞きたいぐらいだよ、ここまで簡単にあいつらが仲間になった不思議を」
獅子南たちが振り返ると、そこには解説してくれたカカシがいた。何故、彼がここにいるのかというと、スレイは所用でしばらくログインできないので、魔物組が新しく仲間にした元森の主らが暴れないように、見張ってほしいと頼まれたからだ。
「あはははは。すごいよねー、本当。規格外もいいとこだよ。はぁぁあああ」
深いため息は、それだけで、カカシの苦労を忍ばせるものだった。
次→8/11 19時




