205話 イベント一日目の夜 13 (※多数視点)
・・・危ないところだった。
正直、スレイはテルアの魔物たちと戦闘が避けられてほっとしていた。
こんなところで戦闘になれば、負けるのは自分達の方だ。そんな確信があった。テルアの魔物たちは強い。戦いを避けるのは当たり前だ。
ただ、ずっと自分たちに負の感情を持たれ続けることもスレイとしてはありがたくない。なので、後で必ず説得することにする。
まずは最初の目的である有楽月との約束と、春に頼まれたことの完遂をしないといけない。
スレイは、ぎすぎすした空気の中、話しかける。
「実は、有楽月から頼まれ事をしたのだが。村に戻った二人の鬼人が、なかなか戻ってこないと。ここにいるか?」
途端、倒れていた二人の若い鬼人が勢いよく起き上がった。
「ヤベ! よく考えたら早く戻らねぇとダメじゃん、俺たち!」
「不可抗力があったとはいえ、長にご心配をかけてしまうなんて! 獅子南、また村に戻って豆と薬を早く持っていきましょう!」
「おうよ!」
話は決まったとばかりに迅速に行動する、二人の鬼人。
鈴音と、もう一人、鬼人のじいさんに挨拶をし終えた二人は慌ただしくこの場を去ったのだった。
「それと、春から頼まれた。女将の様子を見てきてほしいと」
「春が? まったく、心配性だね、春は。仕方ない、鉄斎のじいさん、あたしも明喜に帰るとするよ。ところで、このお酒は甘いけど、さっぱりとしてて飲みやすいね。幾らか払うから、譲ってはもらえないかい? うちに置きたいんだ」
ーーーシヴァのお酒、気に入ってもらえたの? 嬉しい! 材料さえあれば作れるから、お近づきの印に三本無料で提供するよ。その代わり、シヴァたちも村に入れるようにしてくれない?
三つ目蛞蝓が、そんな提案をすると、鈴音は少し思案するが、ふっと艶然に微笑んだ。
「そうだね。あんたたちなら、村でも暴れたりはしないだろうし、別の心配もしなくて済むしね。あたしから、村のみんなに周知しとくよ。明日からは普通に村に出入りできるよう、入り口の門番にも話を通しとく。それでいいかい?」
魔物組は、当然喜んだ。これで、依頼が受けられる。そこに、言葉という爆弾を投げ込むものがいた。
「そういえば、東にいたボスらしき巨鬼を倒したんだが、それは依頼とか出てないのか?」
「なんじゃと!?」
獣人の一言で場は騒然としたのだった。
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