202話 イベント一日目の夜 11 (※多数視点)
鈴音は、明石と獅子南の案内を得て、すぐに建物へとやって来た。本当に村から近い。
「ここに、その魔物がいるのかい。!? 誰だい!!」
ばさり、と、翼を広げる羽ばたきの音がしたと同時に、白羽が落ちてくる。
それと共に無数の視線が上から降ってくる。
「今夜は客人の多い日だな。せっかく見逃してやったのに。また戻ってくるなんてな」
「げっ」
「うっ」
「大カラス? 何故、こんなところにおるんじゃ?」
「ん? ずいぶん強そうなじいさんだな」
白くなった、ヤタガラスのヤマトが降りてきた。
(このカラス、まったく油断してないねぇ)
ヤマトは鈴音の実力を正確に把握していた。故に、誰も手出ししないよう、大カラスたちに厳命した。
対して、鈴音もまた、ヤマトが厄介な実力を持つ魔物だと察した。
なるほど、と納得する。これは確かに、鉄斎や明石、獅子南の言い分も理解できる、と。
「ここの主に話があって来たんだ。案内してくれないかい?」
「主は不在だ。残念ながら、あとしばらくはこちらにも来ないな。他のやつらに会いたいなら勝手にしてくれ。そこの建物の中だ」
ヤマトは他の魔物と一緒にばか騒ぎをする気にもなれなかったので、外で見張りをしていた。
魔物は、魔素の濃い場所であれば、特に寝ないで活動できたりする。寝たとしてもダークエルフのナーガやサイガよりかは睡眠時間は少なくて済む。
それに、ヤマトはテルアが来たときにほめてもらう要素を増やしておきたいという目的もあった。
「なんだか、油断はできないまでも危険性は確かに低そうだねぇ」
「だから、言うたじゃろう。こやつらは大袈裟すぎるんじゃ。まぁ、油断してると惑わされてしもうたみたいじゃがな」
鉄斎の言葉に、全員が身構えたが遅かった。全員の体に糸が巻き付けられており、いつのまにか動きを封じられていた。
「! このあたしに、こんな真似をしてくれるなんてね。上等じゃないか!」
鈴音は風の鬼術で糸を断ち切った。相手が驚く気配が伝わってくる。
「そこ!」
懐から取り出した扇の先端から烈風を生み出し放つ。
姿を現したのは、大蜘蛛と、ナメクジ、それに洞窟などで見かける吸血蝙蝠だった。
ーーーうーわー。怖いね、まさかハイドの隠密を見破っちゃうなんて。シヴァビックリだよ。
とても驚いてるとは思えない感じでナメクジが話す。
「きぃっ。ききぃ!」
蝙蝠は何を話しているかはわからないが雰囲気から察するに、ビックリしてるようだ。
「おや? 貴方方は先程の鬼人。それに、ご老体と美女までいらっしゃるとは、なにか、私たちに用でしょうか?」
「お前ら! さっきと態度違わねぇか!?」
「いえ。先程はみな、酔っていたので。それに、貴方たちでは私たちを倒そうとしてもできなかったでしょうし。あと、貴方たちの場合は・・・」
人型で一際鬼人に近い魔物が困ったように明石と、獅子南を見遣る。なぜか、同情されているようだ。
「後ろの防犯木像が今か今かと攻撃の機会を窺っていますから」
へ? となる二人の上から、不気味な木像(?)がどかどかと降ってきて。
「ふぎゃあ!?」
「うぎゃぁあ!?」
二人分の悲鳴が、辺りに木霊したのだった。
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