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201話 イベント一日目の夜 10 (※多数視点)

「ねぇ、あれ何? あんなところに建物あったっけ?」

「カカシの兄貴! あれはきっとマンションだ! マンションに違いない!」

 興奮しながら、カカシの言葉に答えるミキに皆が白い視線を送るが、多少夜目がきくスレイも実はミキの意見に賛成してしまいそうだった。と、いうか。


「行きに、あんなところに建物など建ってなかっただろう。夜になって出現したのか?」

「えっ!? ってことはさ、スレイちゃん、あれ、時間限定ダンジョンかもしれないってこと!?」

 途端、モッキーが食いついてくる。もしも、時間限定ダンジョンならば絶対に制覇したい!と顔に書いてある。分かりやすすぎだ。


「でも、確かに気になるわね、あんなところにある建物なんて。村にも近いし。イベントの何かの可能性は否定できないのではないかしら」

「どうするんや、スレイ?」


 ほりっくわーかーの問いに、スレイは仲間を見回すが、どうやら全員好奇心を抑えられていない。

 

「ひとまずは村に行く。そんなに急がなくても、すぐには建物がどうこうなることはないだろう。頼みをきちんと果たしてから、あそこに行くなら、俺も反対はしない」


 途端、やる気を出す面々に、スレイは苦笑するしかない。


「そうと決まりゃあ、SPガンガン使ってくでー!」

 ほりっくわーかーは全員にスピードアップと、暗視ができるようになる闇魔法を掛けていく。そして、六人は村へと急ぐのだった。


 村に着いてすぐ、村唯一の宿屋、明喜へと行った六人はそこで予想外の出来事に遭遇する。

 宿屋に入ろうとした途端、中から勢いよく出てきた人物とカカシがぶつかって、ひっくり返ったのだ。


「! ごめんなさい〜、急いでいたものでー。あの、お怪我はありませんか〜?」

 カカシの上に乗っていたのは、肉付きのよい、一人の鬼娘。さらに間の悪いことに、彼女は倒れたときにその豊満な胸を思いきりカカシの胸板に押しつけてしまっている。

 女性陣からは、ビシバシと厳しい視線を頂戴し、男性陣からは羨ましそうにされる。

 カカシは慌てて、鬼娘を上からどけようとするが。


「あいたたた」


 動こうとした鬼娘が苦痛に顔を歪める。どうやら、倒れた時に足を捻ってしまったらしい。

 カカシにすがりつく鬼娘。女性陣の視線は鋭い刃物のように、カカシの体に突き刺さるかのようだった。


「カカシ、大丈夫か。・・・・・・失礼する」


 その窮地からカカシを救ったのはスレイだった。鬼娘をさっと横抱きにして、カカシの上からどけてくれる。カカシもすぐに起き上がった。

 横抱きにされた鬼娘は目を丸くしたが、やがて恥ずかしそうに顔を伏せた。

 そのまま、宿屋の中へと入り、空いてる部屋を鬼娘に訊ねて、その部屋へと案内してもらう。

 

「ありがとうございます。私はこの明喜の留守を預かっております、春と申します。先程は見苦しいところをお見せしてしまいました。深くお詫び申し上げると同時にご厚情に感謝致します」


 足を伸ばした状態で、頭を下げられる。すぐにほりっくわーかーが春の捻挫の治療をし、痛みがなくなった春は、ほっと息を吐き出した。


「いや。こちらこそ勝手な真似をしてすまなかった。ところで、先程の言葉から察するに、女将は留守なのか? 女将に用事があったんだが」


「申し訳ありません。明喜の女将である鈴音は、只今留守にしてまして。伝言でしたら、私が承りますが」


「いや、有楽月からこの手紙を預かっていてな。女将に渡してもらえるか?」

「頂戴致します」

 春は頭を軽く下げ、恭しく手紙を押し頂いた。

「こちらは、間違いなく、女将に渡しておきます。他にご用件はありますでしょうか?」


 はい、と元気よく挙手したのはミキだった。


「あの、村近くにある高い建物、なんっすか? マンションとか?」

「いえ、私もよくは存じません。村へ帰ってきた鬼たちは、あそこに魔物がいたと、言っていたのをちらりと耳にしましたが。それ以上のことは私にもわかりません。申し訳ありません」

 春が申し訳なさそうにすると、ミキは慌ててわからないならいいっすよ!と、春を気遣う。

 どうやら、ミキはこういうタイプが好みのようだった。


「その、皆様はあの建物にこれから行かれるおつもりですよね?ならば、一つ私の頼みを聞いては頂けませんか?」

「頼みの内容は?」


 スレイは迂闊に二つ返事で引き受けることはしなかった。


「女将の様子を見てきてほしいのです。女将はこの村でもとても強いのですが、いかんせん、魔物が相手では少々不安なのも事実。女将に何かあれば、若長にも顔向けできません。なので、女将をここまで連れ帰ってきては頂けませんか?もちろん、お礼もそれなりに弾みますので」


 春は、さっと金の装飾品を取り出した。

 精緻な細工といい、輝きといい、かなり高値で売れそうな代物だ。


「もしも、女将の様子を見てきてくださるのでしたら、こちらは差し上げます。ですので、どうかお願いできませんでしょうか?」


 スレイは、各人の顔を見た。特にメンバーに文句はなさそうだ。


「わかった、引き受けさせてもらう」


 その言葉を聞いた春は名前の通り、春の日差しのように温かで柔らかな笑みを浮かべたのだった。


 


次→ 8/5 21時

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