20話 ジョブに就こう! 1
じいちゃんに街まで送ってもらった僕は、街の中に入ろうとして、ついてこようとしてるじいちゃんたちをジトーっと睨んだ。
「なんで、街中までついてこようとしてるの、じいちゃんたち?」
「ん? いや、どうせ街まで来たんじゃから、こやつらをジョブに就かせようと思ってな。それに、そろそろ迷宮で拾ったアイテム類も売っておきたいんじゃよ。テルアは広場まで行くんじゃろ? 途中まで道のりは一緒じゃ」
「えっ。魔物でもジョブに就けるの?」
僕はビックリした。このゲームが魔物でもジョブに就けるっていうのは初耳だ。システム自体はよくある話だけど。
「人種差別はいかんぞ、テルア。問題なく魔物でもジョブに就けるわい」
へぇー、そうだったんだ。でも、それなら特訓の前に就けば良かったんじゃないだろうか?
僕が疑問を呈すると、じいちゃんは何でもなさそうに答えてくれた。
「ゲームプレイヤーたちは、最初からジョブに就けるが、魔物たちはそうはいかん。魔物たちがジョブに就けるのはレベルが20を越してからなんじゃよ。じゃからそろそろ街に降りないといかんなと思っとったんじゃ。ある意味、テルアの約束は、都合が良かったと言えるの。それと、テルアもレベル20を越したから、転職料金が半額になっとるはずじゃ。何か好きなジョブに転職したいなら、冒険者ギルドに行けば良いからの」
な、転職料金半額!? その情報、もっと早く知りたかったよ!
じいちゃんに出会った時にはもう転職してたから、あんまり意味なかったかもだけどさ! それにしても、じいちゃんって、本当に物知りだね。多分これは魔神だからっていうより、ジャスティスというキャラが知識を蓄えることが好きなのだろう。
じいちゃんの場合、ジョブが先生とか似合いそうだ。
授業もスパルタだけどわかりやすいし。
「ねぇ、じいちゃん。僕もちょっとだけ付いてっていい? みんながどんなジョブに就くのか、かなり興味あるから」
そんなに時間はかからないと思った僕は、ついそんなことを言ってしまった。
じいちゃんらは嬉しそうに、「もちろんじゃ」と答えて、僕らは街中にみんなで入った。
「ひ、ひぃぃいいい!」
「ま、魔物!?」
「大蜘蛛だぁー! 大蜘蛛が出たぞーっ!」
あっという間に街はパニックに陥った。そんな中を、じいちゃんやシヴァたちは悠々と歩いて・・・・・・って、ちょっと待った! 警備兵らが集まってきてるんだけど!?
「ふーむ、儂らは普通の冒険者なのに。ひどい扱いじゃのう。ここは人種差別の強い人間しか住んどらんのか」
じいちゃん、じいちゃん。今さらだけどシヴァたち、魔物だから。
そして、ハイドはこの辺りじゃ見かけない種類の魔物だから、驚くのも無理ないと思うよ?
「止まりなさいっ!」
僕らを取り囲んだ警備兵の隊長さんと思しき人物が、僕らに注意喚起する。
「それ以上、街中には入らないで頂こう。入るならば、敵として認識する」
隊長さんは、足も声も震えさせながら、それでも職務を全うしようとする、なかなかに根性のある人だった。
僕は好感を抱く。
「邪魔なんじゃが」
ただ、じいちゃんはそう思わなかったらしい。冷ややかな視線と声で相手を威圧する。
隊長さんの震えが一段と大きくなった。
「な、何用、で、ここ、この、街、までき、きたのか、ぉぉお聞かせ願おう」
歯の根が合ってない。震え混じりの声は、ひどく聞き取りにくかった。
じいちゃんは眉をひそめたままだ。
僕は前に出た。
にっこりと笑って、代表として説明をする。
「こんばんは。お仕事いつもお疲れさまです。僕が、ここにいる魔物たちの主です。この大蜘蛛はハイド、こっちの蝙蝠はブラッド、それで三つ目蛞蝓はシヴァっていいます。みんな、見た目はちょっと怖いかもしれませんけど、気のいい魔物です。今日は、みんなのレベルが上がったんでジョブに就きたくてこの街に来ました。暴れないとお約束しますので、通らせてもらえませんか?」
見た目はただの子供にしか見えない僕の言葉に警備兵たちはざわめいた。
「それは、本当かね? この魔物たちの主が、君? そちらのご老人ではなく?」
「じいちゃんは、僕たちの先生です。でも、僕がいなくてもじいちゃんがいれば街中で暴れたりしません。用事を済ませたら、すぐに出ていきますから」
僕が言い募ると、警備兵の人たちは顔を見合わせた。隊長さんは、何事か思案していたが、やがて。
「ふーむ、わかった。実際、そっちの魔物たちからは敵意を感じないしな。できれば、早くジョブに就いて、速やかに街を出てもらいたい。他の住人が怖がってしまうからな。それと、念のため私が監視役として君たちに付く。構わないか?」
「いいですよ、別に。僕たちはそれで問題ありません。みんな、いいよね?」
「まぁ、仕方ないじゃろう」
ーーーーーーいいよ。
ーーーーーー了解した。
シヴァとハイドから返事は来るけど、ブラッドからの返事はない。よく見ると、また寝ていた。
そろそろ夜だから起きそうなものだけど。
こうして、僕たちは隊長さんに見守られながら街の冒険者ギルドを目指した。
街中に入るだけで、すごい騒ぎだ。
今度から気をつけた方がいいかもしれない。
冒険者ギルドに着くと、困ったことが起きた。
「どうしよ。このドアの大きさじゃハイドが入れない」
「そうじゃのう」
まさか壊して入るわけにもいかないし。修理費要求されるのは嫌だし。
「うむ、少しみなはここで待っておれ。儂が何とかしてこよう」
じいちゃんは、一人だけ冒険者ギルドに入っていった。
おとなしく待つこと、数分後。
「ちょ、待ってください! それは大事なものなんです! 返してください!」
「誰か、誰かその人を止めてーっ!」
「待て、じいさん! そりゃ冒険者ギルドになくちゃならねぇもんだ!」
わー、ぎゃー、どたばたどたばた。
中から悲鳴やら怒号、物音が聞こえてきたが、しばらくすると収まった。
冒険者ギルドの扉が開く。
「待たせたの。ハイドが入れないなら、外でジョブに就くしかなかろうて。ジョブに就くのに必要な水晶を借りてきた。まったく、おとなしく渡せば怪我をせんで済んだのにのぅ」
「へー、ソウナンダ」
中で何があったのか大体想像ついた。
だけど僕は深くは聞かない。聞かないったら聞かない。
「さて、まずは誰からいくんじゃ?」
シヴァがぴょんぴょん飛び跳ねてアピールした。
最初はシヴァからになった。
シヴァはジョブ水晶に触手を置いて、何事か念じている!
シヴァのメインジョブが薬師になった!
シヴァのサブジョブが盗賊になった!
薬師と盗賊? 変わった職業編成だなぁ。ん? でも、あながちおかしな編成でもないか。薬師なら薬を作るから、その材料がいる。材料を取るために、危険な森やら平原に入ることもある。
そんな時、隠密行動や逃げ足が上がる盗賊に就いていたら、魔物をやり過ごせるだろう。
そう考えると、中々理にかなってると思ったんだけど。
ーーーーーー主ー! これでたくさんぽーちょんが作れるよー! 主のために頑張るね!
ちょっと待って、シヴァ。君、僕がぽーちょんしか使ってるところ見たことないから、僕が市販の苦いポーションだと飲めないとか思って、薬師に就いたの?
そうなの?
確認するのが怖いので、僕は聞かなかった。
人生、知らない方がいいことってたくさんあるよね。勉強になるよ。
名前 :シヴァ(三つ目蛞蝓)
メインジョブ:薬師(Lv1) サブジョブ:盗賊 (Lv1)
Lv :26
HP :1863
SP :917
力 :238 + 38
敏捷 :106 + 60
体力 :351 + 30
知力 :240 + 60
魔力 :206 + 50
器用 :312
運 :1000
親密度:100
スキル 体当たりLv10 なめるLv5 生命力吸収Lv3 毒攻撃Lv4 忍び足Lv1 薬品作成Lv1 タフネスLv 10 不屈の闘志Lv 8
称号 ユニーク個体 テルアの仲間 魔神の加護
装備 毒針×8 火鼠のマント 暴風の腕輪×3 さざ波の腕輪×3 毒蜥蜴の腕輪 精霊の腕輪 魔力の腕輪 ケット・シーのブローチ




