197話 イベント一日目の夜 6 (※多数視点)
暗闇の森の中、樹から樹へと移動をしていた二人の鬼人の男の、一人が足を止めた。がたいのいい、ガキ大将がそのまま大きくなったような、そんな印象の鬼人だった。紫紺色の長い髪をかきあげる。
「なぁ、明石。俺の記憶が正しけりゃ、あんなところにあんな高い建物はなかったはずなんだが。どうよ?」
「はぁ?何をバカなことを言ってるんで・・・・・・何ですか、あれは」
明石と呼ばれた鬼人の青年、黒髪黒瞳の線の細い青年は、目を丸くした。
「やっぱり、俺の目が節穴になったわけじゃないよな? 本当、なんだ、あれ」
「私に聞かれてもわかりませんよ、獅子南。それに今は村に向かう途中で・・・」
会話する二人の背後にこっそりと忍び寄る影。
二人はそれに気づかない。
ガッ、ゴッ。
忍び寄った影は二人の急所に一撃ずつ食らわせ、気絶させると、糸でぐるぐるまきにして、自分らの拠点に戻るのだった。
「う、ん?」
明石が目を覚ますと、そこには大きな蜘蛛の顔が間近にあった。
「ぎゃぁあああああ!?」
寝ぼけていた明石は、悲鳴を上げた。普段は、沈着冷静を心がけていても、まだまだ明石は若い。不意打ちを食らってはひとたまりもなかった。
「んだよ、うっせぇ・・・・・・げぇっ!?」
目を覚ました獅子南も、さすがに驚愕する。だが、すぐに我に返ると、明石をかばった。腰の太刀に手を伸ばそうとして、自分たちの身動きが封じられていることに気づく。
ちっと舌打ちと共に獅子南はひとまず臨戦態勢に入ると。
「おいおい。ずいぶんと警戒心の強いガキ共だな」
「俺、さっき頑張って小屋作って疲れてんだけど。尋問ならサイガ一人でやってくれよ」
白銀の狼姿の獣人と、黒髪に紫水晶の瞳を持つ、褐色の肌のダークエルフの少年の二人組が、眼前に現れた。
「あなたたちは?」
「おう、自己紹介忘れてたな。俺はサイガ。こっちのちっこいのは、ナーガだ。お前ら、俺らの拠点の周囲をうろちょろしてただろ? んで、ハイドがお前らを捕らえたってわけだ。んで、俺らの拠点に何の用だ?」
「何の用って・・・あなたたちこそ、何者ですか? ここは、私たちの村の近くです。そんなところに、おかしな建物があれば、様子見くらいするでしょう」
明石の言葉に、大蜘蛛がくっと首を傾げた。
ーーーーーー子鬼が迷いこんで、きちんと手土産も持たせて村に帰したのに、疑われてるみたいね。
「しゃべった!?」
大蜘蛛が話しかけてきたことに獅子南が唖然とする。
「当たり前だろ。ハイドはテルアの使役魔物だ。しゃべれなければ意思の疎通ができないだろ」
「いや、ナーガ。こいつらの常識では魔物はしゃべらないものと思ってるから、説明しても理解しねぇと思うぞ?」
ーーーーーーとりあえず、ずっとここで話すのもなんだし、さっきナーガの造ったあれのところまで運んだら?
え、と、思うよりも先に明石と獅子南はサイガによって、ハイドの上に放り投げられて、そのまま最初に発見した建物まで連れていかれるのだった。
次→8/1 21時 余裕をもって、21時更新予定です。明日から一日一回更新になります。m(_ _)m




