189話 巨鬼退治 4 (※多数視点)
狂戦士化。
それは、興奮や怒りの状態異常に掛かると、起こりやすいと言われている。自らの生命力の半分を引き換えに、使用した者の身体能力を極限まで高める、両刃の剣の面を持つ、使いどころが難しいスキルの一つだ。
さらに、狂戦士化状態になると、敵味方の区別がつかずに、自らの周辺にいるもの全てをなぎ倒す。
ソロプレイヤーならばともかく、チームで活動するプレイヤーはほとんど使用しない死にスキルだ。
だが、それを敵魔物が使用するとどうなるか。
周辺にいるまものを巻き込みながら、プレイヤーたちを捻り潰そうとする、非常に厄介な敵の出来上がりだ。
元々、巨鬼はステータスが高いために、その恩恵は計り知れない。
故に、狂戦士化した魔物からは必ず距離を取ることが重要だ。
狂戦士化状態は、ずっと続くものではない。当然のように制限時間がある。制限時間は、スキルLvに比例する。
巨鬼の場合であれば、十五分だ。
そこまで持ちこたえられれば、敵魔物の敗色が濃くなる。
ただし、持ちこたえられればの話である。
狂戦士化状態に耐えきれなければ、死ぬ。
そんな限界ギリギリの状態の中であっても、平静や冷静さを保つのは難しい。
普通は。
だが、巨鬼と対峙してるのは普通の魔物たちではない。
百戦錬磨とまでは言わないが、常に格上の存在を相手にしてきた者たちなのだ。
それ故に、精神を立て直すのは早かった。
残念ながら、仲間にした大カラスたちはそこまでの強さを発揮できるわけではなかったが。
現在、巨鬼と対峙する影は六つ。
シヴァ、ブラッド、ハイド、チャップ、ナーガ、そしてサイガである。
とにかく、全員が制限時間内に巨鬼に叩き潰されないよう、ちょこまかと動き回る。分散していることで、誰かに集中させないよう、注意をあちらこちらに引き付けているのだ。
巨鬼は、その素早さで敵をとらえようとするが、掴まえたと思ったら、樹木であったり、気づくと腕に糸が巻き付いていて動きを阻害されてしまったりと、翻弄されっぱなしであった。
足で地団駄を踏み、巨鬼は再び大きく息を吸い込むと、連続で口から見えない空気の弾丸を放つ。
しかし、それさえも無駄な足掻きと回避されてしまう。
巨鬼は、確かにステータスだけを見たら、強く、とても魔物組では歯が立たない。
だが、巨鬼は頭を使いながら戦うことに慣れていなかった。さらには、両目の傷と片足が使えないことは、明確な足枷となって、巨鬼の本来の能力の引き出しにブレーキを掛けていた。
それが、明確な差となってこの戦いで出てしまったのだ。
彼らは油断しない。巨鬼が息を吸い込むのを視認すると同時に、距離を取ったり、巨鬼の一挙一動に神経を集中させ、巨鬼の次の攻撃を予測しながら常に隙を窺っている。
やがて。
巨鬼の狂戦士化状態の制限時間がやって来る。
金色に光っていた体は元の色に戻り、巨鬼のステータスも全て通常に戻る。
それを狙っていた魔物組は、遂に反撃を開始したのだった
次→7/28 19時




