185話 イベントの参加者たち 18 (※多数視点)
「これだけ人数が増えたら、かなり戦闘が楽に思えるんだけども。シヴァ的には、人数絞るか絞らないか迷うなぁ」
「? どういうことだ?」
巨鬼の姿を知らないナーガが、ぐいんと首を傾げると、油断していたわけではないものの、不意打ちでハイドが掴まったことを説明するブラッド。
「僕も、地上にいると、かなり不利だと思う。空を飛べるなら、空中で翻弄する方が楽かもしれない」
「そうですか? 逆に空からの奇襲を生かすためには、地上からも攻撃をした方が、注意をそらせる気がしますが。安全性も高まるかと」
「ただ、地上からも攻撃を加える場合、とにかく巨鬼に近づかないといけない。だけど、あの巨鬼に掴まったら、生半可な防御じゃ一撃死しかねない。自分も危なかったし」
「防御力の一番高いハイドがヤバイって言ってるくらいだ。他の奴が掴まったら、おしまいだな」
ポンポンと意見が交わされる。だが、なかなか、意見がまとまらない。
魔物組が困って沈黙した頃合いを見計らい、それまで成り行きを見守っていた獣人、サイガが手を挙げる。
「少し、俺の意見を言わせてもらってもいいか?」
サイガとナーガはイメージがしにくいだろうからと、チャップが用意した巨鬼の情報を読んでもらっていたのだ。
この期に及んで獣人が裏切るなどとは、魔物組は思っていない。
何故なら、裏切りを念頭に行動したとしても、巨鬼を倒すまでは協力せざるを得ないだろうと、彼らは考えていた。
逃げるなら別にそれでもいい。その程度の実力しかないと、彼らの記憶に残るだけの話だ。彼らが信じているのは、ナーガであって、獣人のサイガではない。
「データは見させてもらった。この巨鬼だが、一応、目はあるんだよな? 最初にどちらかの片目を潰して、相手の視界を狭めてみたらどうだ? 見えてると見えてないとじゃ、かなり反応が違うと思うが。その上で、その片目の死角から攻撃をすれば、安全性は増すんじゃないか?」
サイガの意見に、全員が考え込む。やがて、チャップがポツリと呟いた。
「やって、やれないことはないかもしれません。目は魔物にとっては急所に当たります。それに、視界が狭まり、死角が増えるというのもこちらにとっては有利に働きます」
「そうだな。両目を潰せればそれが一番いいが、片目だけでも潰せれば、相当戦闘が楽になりそうだ」
「視界が狭まるってのは仮説に過ぎないよ? 僕の超音波が効いたくらいだから、五感はあると思うけどさ」
「片目を潰せないなら、目潰しで相手の視界を狭めるって手もあるよ? 効くか事前調査が必要かもしれないけど。シヴァ的には、ぶっつけ本番はあんまり好きじゃないから」
その後、サイガの意見を取り入れた議論は白熱した。ナーガが唖然とする程に、魔物組はそれぞれの意見を言い合う。それらを見ていたサイガは、魔物組の評価をかなり上方修正した。
問題点の洗い出しと、それに伴う対応や対策がポンポンと出てくるとは、相当に勝てそうにない相手に対する経験値が高い。
サイガは知らなかったが、魔物組の修練相手は、ほとんど魔神ジャスティス、時々テルアというとんでもなく勝ち目の低い相手ばかりだった。それ故に、ジャスティスやテルアに勝つための方法を彼らなりに必死に模索し、検討しあい、地道に経験を積み上げてきたのだ。
何故なら、魔神ジャスティスは戦闘後には、どんな点が悪かったのか、その戦闘での悪い点をきちんと挙げるよう、言い聞かせていた。
最初は議論の形にはならなかったが、そういうものはやっていくうちに徐々に慣れていく。戦いの一戦一戦を反省していく。そして、その反省点を今後どう活かすか話し合う。
故に、魔物組はごく自然に、勝てなさそうな相手にどう対処するか、といった議論ができるのだ。それらは、低ランクの冒険者ではあり得ない、高ランク冒険者が行うものと本人たちは知らないが。
魔神ジャスティスの教育は厳しいながらも真面目に取り組めば、しっかりと身になるものなのだ。
やがて、これならばと誰もが納得する作戦が立てられた。
途中、サイガやナーガも口出しをした計画は、かなり練られたものだった。
彼らは作戦をしっかりと頭に叩き込み、その日の内に討伐を決行したのだった。
次→21時




