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171話 イベントの参加者たち 4 (※多数視点)

(今日は大漁じゃのう、異界人の客が)

 眼前にいる、六人の男女を言葉巧みに誘いながら、この辺りの地図を5割増で購入させることに成功した翁姿の鬼人、鉄斎(てっさい)はよい小遣い稼ぎができた、と内心ほくそ笑む。

「あの、すみません。この地図では、村の場所が書かれてないんですが・・・」

 

 購入した地図を確認しながら、困ったようにひょろ長い青年が訊ねてくる。色々と情報収集を怠らないその姿勢に、敬意を表して、彼は村の場所はちょうど真ん中にあると教えてやる。


「今は、色々と薬が要り用じゃから、行くなら南をお勧めするの」

 何せ、南では薬石がとれる。その薬石は、この村では貴重な財産収入の要だ。

 薬にすれば、買い取った五倍以上の値段で売りさばけるのだから。

「そうですか。ありがとうございます」

「それと、村の近くにちょっとした広場があるから、そこで野宿できるわい。ただ、野宿する際には見張りを立てねば魔物に襲われるがのぅ」


 地図を購入してもらった礼だ。このくらいの情報提供ならこちらに損はない。周囲を探索すればすぐにわかることだからだ。


「ありがとう、ご老人。助かった。地図のことや広場のことも。それでは俺たちはそろそろ出発させてもらう」

「あぁ、そうか。気をつけて行きなされ。奥に行けば行くほど、魔物は強くなるでな」

「お気遣い、痛み入る。では、失礼する」

 固い口調ながらも礼儀をわきまえているリーダーの青年に好感を抱きながら、鉄斎は建物から出ていく姿を見送った。


「なかなか強かったのぅ、あやつら」

 相手の隙をついて軽く解析をしていた鉄斎が呟く。この村に来た異界人の中でも、上位に位置する能力持ちだろう。


「これは、大祓えの豆まきがおもしろいことになりそうじゃ」

 大祓えの豆まきのために、若い男衆は皆、村からいない。それが何を意味するのか、いずれ彼らも理解(わか)るだろう。

「さてはて。どうなることやら。わしは特等席で高みの見物じゃがな!」

 呵々大笑しながら、鉄斎は客が途切れた隙に夕飯の準備を始めるのだった。

 


「お姉ちゃん、あれ」

「なんで、この広場に魔物が・・・早く、村のみんなに知らせた方がいいかも」

 樹木の間から、小さな子鬼の二人が村近くの広場をこっそりと観察していた。村の近くの広場に見慣れない魔物がいるのを、妹の方の子鬼が見つけ、姉は村を守る母親に少しでも詳細な情報を持ち帰るべく、情報収集の真っ最中だったのだが。


「それは困ります。私たちがここに来てから、もう数えきれないほど戦闘を挑まれて、迷惑しているのですから」

「かぁ!」

 突如背後から響いた声に、二人はビクッとなる。恐る恐る振り返ると、そこには自分たちの身長よりも高く、屈強そうな人型の魔物が立っていた。二人は見たことがなかったが、普通の人間よりもより化け物に近くした強面の顔は、二人をビビらせるには十分だった。


「一応、言っておきます。私たちは誰かを襲ったり、村を襲う魔物ではありません。ですが、襲いかかられればこちらも自分の身が可愛いので反撃させてもらいます。手出ししないで頂くのが互いにとってよい方法かと」

「村を襲わないって? 魔物じゃない、あんたたち」

 姉の子鬼は震えながらも、言葉が通じるならばと会話を試みる。

 小さいのになかなかの度胸だった。それもそのはず。この二人は今は、村守を務めてる女傑、鈴音の子どもなのだから。


「確かに、私たちは魔物です。ですが、私たちを束ねる(マスター)がいます。私たちは主が望まない限りは、不要な戦闘は避けます」

「! つまり、誰かに従ってるってこと!? 魔物が!?」

「魔物を仲間にする能力を有した職業(ジョブ)があります。私たちの主はその職業に就いてる、すごい方ですよ。私の師匠でもあります」

 魔物の強面の顔がふっとほころび、微笑む。それだけで、どれだけその主が大事な存在なのか、子鬼の二人に悟らせるほどに、その笑顔は魅力的なものだった。

「あなたたちの仲間って、あの蜘蛛も?」

 奥にいる、大きな岩のようにも見える蜘蛛は、離れていてもその威圧感が漂ってくる。


「ええ。ハイドも私たちの仲間です。信じて頂けないのなら・・・ヤマト!」


 魔物の肩に留まっていた鳥のような魔物が、ばさりと翼を広げ、蜘蛛に向かって飛んでいき。かぁ、かぁ、と鳴く。

 すると、蜘蛛は口から糸を吐き出し、足を動かした。しばらくすると、美しい布が出来上がる。

 鳥型魔物はそれを嘴にくわえると、また戻ってきた。


「これをどうぞ。お近づきの徴です。私たちのことを、誰かに言うのは構いません。ただ、敵対する気がないことだけは、伝えてもらえませんか?」


 手渡された布は、とても滑らかな触り心地だった。こんなものまでくれるのだから、かなり親切だ。


「わかったよ。少なくとも、迷いこんだ子どもを襲うような魔物じゃないって、母さんには伝える」


「ありがたいです。あぁ、でも。日がくれてからの子どもの出歩きは感心しません。次から、もっと日の高いうちに来ることをおすすめします。まぁ、日が高いうちは、私たちもこの辺りを探索していることの方が多いですが。それと・・・あのテントは壊そうとしないでください。もしも、壊そうとすると・・・襲いかかられますから」


 途端、バサバサバサバサっと、大きな羽音が幾つも響いた。

 驚いて上を見上げると、何十羽もの、鳥型魔物が樹上からこちらを見下ろしていた。その鳥型魔物は、今眼前に佇んでいる人型魔物の肩に留まっている鳥型魔物によく似ていた。似ていたが、決定的に違うのはその色だ。布を渡してくれた鳥型魔物は、白かった。樹上の鳥型魔物は黒い。おそらく、樹上の魔物たちの長が、白い鳥型魔物だと、姉は思った。


「わかった。それも伝える。だって、あんたたちがその気だったら、あたしらはもうとっくにやられてただろうから。警告だけで済ませてくれて、ありがとう」 

「いえいえ。わかっていただけて何よりです。では、ヤマトに途中まで送らせます」

 ヤマトと呼ばれた白い鳥型魔物は、姉の肩に留まった。

 これには姉の子鬼もビックリする。

 毛繕いを始めたその魔物は、姉の様子に少し首を傾げている。

「お姉ちゃん、撫でていい?」

「えっと・・・」

 わからないので、返事が曖昧になる。

「まぁ、少しはいいでしょうが。嫌がったらやめてあげてくださいね。さぁ、親御さんが心配してますよ。早く帰って安心させてあげてください」

 人型魔物に再びお礼を言い、姉妹は村に帰っていった。その姿を見送りながら、悪魔兵兵隊長のチャップは、大きく息を吐き、上を見上げた。


「見張りをしなくていいのは助かりますが、ヤマトも、ずいぶんと部下を増やしましたねぇ」

 これは、東の方の森探索をした結果である。

 今朝のことを思い返しながら、チャップは、テントに戻るのだった。



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