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167話 イベントの参加者たち 1(※多数視点)

 ーーーーー修練の塔、24階層。

 ズドン!

 轟音を立てて、牛の魔物の頭が吹っ飛んだ。

 向かいの壁に、一本の矢が突き刺さる。


「この弓じゃ、大技過ぎたか」

 ダークエルフの少年は、困ったように手にした弓を見下ろした。

 木製の弓は、先程放った技に耐えきれなかったらしい。

 弦は切れ、弓の部分もほぼ真ん中から真っ二つになってしまっていた。

 これでは、使い物にならない。

 この塔をクリアーしたら、必ず錬金術を覚えようと、決意する。


「お? なんだ、そっちも終わってたのか」

 ひょい、と顔を見せたのは白銀の毛並みを持つ狼の獣人だった。右目に眼帯をしており、恵まれた体からは歴戦の猛者だけが放てる威圧感がビリビリと伝わってくる。

 手にした槍を一振りする動作にも無駄がなく、華麗だ。


「サイガさん」

 少年が獣人の名をやや呆れたように呼ぶと、呼ばれたサイガは少し顔をしかめる。

「ナーガ、さんはいらないって再三言ってるだろ?」

「まだ、出会ってあんま時間経ってないし。信用してるわけじゃないから」


 にべもないナーガの言葉に、サイガは嘆息する。このナーガとは、修練の塔内部で出会ったのだが、ナーガの警戒心の強さは筋金入りのようだ。

「あーもう。わかったって。んで、弓弦切れたのか?」

「・・・・・・・・・・・・。」

 ナーガは返答しない。冷めた視線をサイガに注いでくる。自分の弱みを見せたくないのだろう。長年冒険者をやって来たサイガは、ナーガのように他人に対してあまり気を許さない性格の者も何人もみてきた。だから、感じるのだ。

 今のナーガはみていて非常に危うい、と。


 まるで何かに急き立てられるように、ナーガはがむしゃらに強さを渇望している。

 だが、そのためには自分はどうなろうと構わない、と自分で自分を追い詰めているようにサイガには思えるのだ。

 張り詰めた表情が緩むところを出会ってから見たことがない。

 たとえどれだけの体力があろうと、神経を常に張り詰めさせることは疲れる。

 へたをすれば精神病にもなってしまうほどだ。

(ややこしいヤツだな。けど、見捨てるのも、俺の性に合わねぇし)

 どうしたものかと、思案するサイガは、ふとナーガが何故強くなりたいかを聞いたことがなかったのを思い出す。

 会話の糸口として降ってみると。


「俺の恩人のため」

 簡素ながらも、ナーガの張り詰めていた緊張がわずかに緩む。

「もう、そいつに二度も助けてもらってんだ、俺。でも、俺はいつもあいつに助けてもらってばかりで。俺を守ろうとして、傷だらけになった時、心臓が凍るかと思った。あんな思い、二度としたくない・・・!」

 ぎり、と唇を噛むナーガ。何もできなかった自分。テルアが傷だらけになっても、手助けするどころか、足手まといで。

 変わりたいと、思った。

 強くならなければ、と思った。

 失うかもしれない、恐怖と不安とがナーガを駆り立てるのだ。

 早く強くならなければ、と。


 話を黙って聞いていたサイガは、驚いていた。ナーガは、闇雲に強さを求めていたのではない。守りたい人がいるから、強くなろうと必死だったのだ。

 単純明快な理由に、サイガは堪えきれずに噴き出してしまう。

 急に笑い出したサイガに、ナーガはバカにされたと思い、剣呑な視線を送るが。

 ナーガの予想に反する言葉が返ってきた。

「いいな、それ。ちょっと俺が強くなりたい理由と、似てる」

「え?」

「俺は、これでもそれなりに名の通った冒険者なんだ。ま、自分で言うのもなんだが、実力もそれなりにあるって自負してたんだよ、この間冒険者ギルドで依頼を受けるまでは」

 サイガは、恥ずかしそうに話してくれた。とある冒険者とパーティーを組んで、武神クレストと対峙した時のことを。

「俺はな、その時思ったんだよ。自分もまだまだだってな。気づかねぇうちに、慢心を持ってたのかもな。だから、ここで鍛え直して、いつかその時パーティーを組んだヤツを探して、本当のパーティーを組みたいって思ってる」

 ナーガは毒気を抜かれたように目を見開いたが、次いで苦笑した。

「そっか。サイガさんの探してる冒険者も見つかればいいな」

「おう! 絶対見つけてやるぜ! なにせ、俺は運がいいからな! ついでに、伝手もかなりある。探してやるさ、草の根かきわけても」

 ニヤリと自信満々に笑むサイガ。

 二人の関係が少し前進したところで、第三者が声を掛けた。


「二人とも仲良くなったみたいでなによりだね。ところでさ、さっきの話聞いてたんだけど、ちょっとここ以外で修行してみない、二人とも?」

「あれ? 塔の管理人? なんでここに?」

 基本的に塔のなかであれば自由自在に現れることを知っていたサイガと違い、ナーガの方は、警戒を顕にする。だが、その警戒も次にガンダムッポイノから発せられた一言で全て消し飛んだ。


「ナーガ。ジャスティスから伝言。大祓えの豆まきイベントをこなしてこいってさ。ついでに、君の恩人も遅れるけど強制参加するって」

「え!?」

「場所は鬼ヶ島。ここからは目と鼻の先。ボートなら貸してあげるから、サイガと二人でイベントに参加しておいでよ」

 いきなりの話に呆然とするナーガだが、すぐに我に返る。良く考えればこの話は断れないのだ。じっちゃんの言葉なのだから。


「ナーガがいたら、遠距離攻撃を任せられるから、きっと助かると思うよ。・・・テルアも」

「テルア!? まさか、それって・・・!」

 テルアの名前に過剰反応を示すサイガ。

「情報開示はここまで。後は、自分たちの目で確かめたら?」

 ガンダムッポイノは言いたいことだけを言うと、最上階へと転移した。

 後に残された二人はどちらともなく顔を見合わせると、互いに頷き。二十五階まで凄まじい勢いで駆け上がると塔の外へと出て、鬼ヶ島を目指した。

 ちなみに、塔の入り口には、ガンダムッポイノが用意してくれたボートがちゃんとあったのだった。


次→7/14 19時

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