166話 おにーちゃんよってって村(※多数視点)
「それにしても、運営も変な名前付けるよな。なんだよ、おにーちゃんよってって村って。鬼が住んでるから、そんな名前にしたのか?」
転移先の村に到着したプレイヤー、ミアンは村の名前を笑いながら、余所見をし、前に進もうとして、誰かにぶつかった。
「あぁ? なんだ、テメェ。勝手に人にぶつかって・・・」
ミアンの言葉が途切れる。ミアンがぶつかったのは、巨乳を強調するような露出度の高い服を着た、頭に二本の角を生やした鬼人族の娘だった。
茶色の髪は緩やかにウェーブを描き、体に反して童顔な彼女の涙目の顔から、ミアンとその連れであるヒルトン、さらに魔法使いのマドラスは目を離せなくなる。
「ごめんなさい〜。私、この村に住んでるんだけど、急いでたの〜。今日からたくさんの外のお客さんが来るから、客引きしてきなって女将さんに言われてて〜。おにーさんたちも外から来た人たち? 宿って決まってる〜?」
少し間延びした舌ったらずな口調だが、童顔の彼女には不思議と合っていた。
「い、いや。まだだけど・・・」
ミアンがうっかり正直に答えてしまう。鬼娘の彼女は嬉しそうにミアンの手を握った。さらに、握った手を興奮した風を装い、胸に押し付ける。
「それじゃ、うちに泊まらない〜? 女将さん、私より美人だよ〜? サービスもいっぱいしちゃうよ〜? ねぇ、うちに泊まってってよ〜♪」
(手に、む、胸が当たってる! サービスってことは、ひょっとして!?)
頭の中で妄想を繰り広げるミアンに、そのミアンに嫉妬の視線を向けるヒルトンとマドラス。
それらをにこにことしながら見つめるる鬼娘。だが、そのにこにこが実は金蔓を捕まえられるかもしれないという嬉しさから来ているとは、三人は露ほどにも思わない。
この時、鬼娘に案内されたのは感じのいいバーもある宿屋、明喜であり、そこで美人な鬼娘や鬼女たちに歓待されて、食べたり飲んだりしているうちに、急に三人は眠りの状態異常にかかり、さらには全財産と装備アイテムを宿屋にまきあげられた。
復讐しようと、宿屋に突撃を掛けたプレイヤーも中にはいたが、宿屋の女将である迫力のある美女の鬼女に、こてんぱんに伸され、さらには高笑いしながら慰謝料として借金までつく始末。
その後、下着姿のままで森の中をとぼとぼ歩くプレイヤーの姿が頻繁に見かけられたのだった。
「ふっ。なかなかいい感じじゃあないか! そう思わないかい、春?」
「もう、女将さんってば、イキイキしてますね〜。気持ちはわかりますけど♪」
女将と呼ばれた鬼女は艶然と笑った。丁寧に結わえられた黒髪には、たくさんの簪が品良く差され、着崩した着物から覗くうなじがまた艶かしい。
きりりとつり上がった眉、意思の強さを示すかのように輝く二つの黒曜石。
弧を描く唇は、紅がはかれている。
彼女こそ、この村唯一の宿屋、明喜を経営してる鬼女だった。
明喜の女将と話してるのは、春と呼ばれる鬼娘。豊満な肉体を持ちながら、顔は童顔というアンバランスな容姿の娘だが、女将に仕込まれた男たらしの手練手管はすさまじく、この宿では特別な地位さえも確立している、やり手だった。
「さぁ、この調子でどんどんバカな異界人から、お金をまきあげるよ! みんな、手を抜くんじゃないよ! この日のために、たくさんの魅了粉を特別ルートで仕入れたんだ! 元をとらないと給料なしだからね!」
女将の一括に、明喜で働いてる鬼娘や鬼女たちは気合いを入れて獲物を捕まえに行くのだった。
次→7/13 19時




