163話 テスト前の攻防
じいちゃんからの課題に難癖をつけて、撤回してもらおうとしたのだが、無理だった。半泣きになりながらも、みんなに頑張ってほしいと頼み込み、その日は以前から考えていたオリジナルの魔法をじいちゃんと一緒に開発した。
その日から数えて、今日は三日目。テスト一週間前だ。ようやく出たテストの日程表。普通、五教科ならば二日で十分なのだが、うちの学校ではテスト後、恐怖のマラソン大会が開催される。
それを見越して五教科以外に、保健と、選択授業、情報処理の簡単なペーパーテストが実施される。それらを合わせて、8時間の枠が取られ、最後の一時間は学校全体を挙げての大掃除だ。
普通、大掃除を月一でやる学校なんてないとは思うんだけど。伝統だから仕方ない。ちなみに、この伝統で一番注意しなければならないのは廊下のワックス掛けだ。教室はまだ床の素材が木みたいな物だから、いいのだが、廊下は基本フローリングである。そこにワックスを掛ける=ちょっとしたことでも滑って転びかねない危険区域と化すのだ。
通りすがりの誰かが言ってた。高校三年間の生活で、大掃除後、廊下で足を取られない生徒はいないと。僕もまったく同感である。
「輝ー!今日から勉強教えてくれーっ!」
そして、今日から朝練のみになる部活。正也も今日から朝練のみしかできない。だから、正也が教室に姿を現したのは朝休みが終わるギリギリだ。来て早々、僕に勉強のことで泣きついてくる。僕はあきれながら、正也を出迎えた。
「高校の勉強って、高度なんだよ? 僕に頼むよりも塾で教えてもらえばいいじゃん」
確か、正也は塾通いもしてたはずだ。僕がそう指摘すると。
「二学期に通ってたけど、あんまりにも成績があれだったから、すぐにやめさせられた」
「またぁ!?」
「だ、だってだな! 塾通いなんだから、頭悪いのは当たり前だろ!? それなのに、自分の手には負えませんって、教室たらい回しにされて。そんな感じで、講師とかみんな言ってることバラバラで、理解するどころか混乱して・・・」
あ、思い出した。そういえばそうだ。正也ってば二学期のテスト中間と期末ほぼ赤点だった。僕は塾通いになってるなら大丈夫だろうって放置してたんだよね。
そしたら、まさかの赤点。
その後、しばらく正也は部活に行くことを許されずに補習を(強制的に)受けていたはずだ。勉学を疎かにして、部活をやれると思うな!と、部活の顧問からも一喝されてた。
「ほんと、ヤバイんだって! 俺だって、本当は輝の邪魔したいわけじゃねえよ? でもな、今度テストで赤点とったら、二年に進級してから相当頑張らないと留年させられるかもしれねぇんだよ〜〜〜〜〜!」
うわ、めんどくさ! 泣きついてこないでよ! 僕は自分のおこづかいのためにテスト頑張るつもり満々なんだから!
「それに、テスト終わってから一週間後の土日に、近場の高校集めて、合同試合やるんだって! 二月って短いだろ? 三月入ったら春季大会も迫ってるし! それなのに、赤点とったら合同試合に出さないって、岩間先生に言われちゃったんだって!」
「勉強すれば?」
「テストで簡単に点がとれる頭なら、二学期に苦戦してねぇよ! たーのーむー! ほんっと、今回だけでいいから、手ぇ貸してくれ!」
キーンコーンカーンコーン。
正也がわめいている間に、HR開始の鐘が鳴った。
「八敷! HR始めるから座れ!」
教室に入ってきた担任に注意されながらも、正也はすがるような瞳で、僕を見つめる。本音いうと、嫌なんだけどなぁ、正也に教えるの。まぁ、でも腐れ縁とはいえ、見捨てると本気で恨まれかねない。今回は貸しにしとくか。
そんな風に思いながら、僕は今日の授業を受けるのだった。
そして、僕が授業をおとなしく受けている間に、『ファンタジーライフ』初のイベントは始まる。波乱を巻き起こしながら。
次→7/10 19時




