161話 話し合い(※多数視点)
そこに集まった面々は、呼び出した張本人を意外そうな眼差しで見つめていた。集まってもらって悪いとは思うのだが、その視線が居心地悪いと、ティティベル神は思った。
ここは、ティティベル神の居城ではなく、魔神ジャスティスの城だ。
他の神々から下だと侮られている魔神ジャスティスの居城ならば、邪魔が入ることはないと考えて、ティティベル神が頼んで、知り合いを集めてもらったのである。
集まったのは、ここ最近とあるプレイヤーに肩入れしている、武神クレスト、魔神ジャスティス、太陽神ロード、魔術の守護神ククだった。見事に男神ばかりである。
まぁ、その程度の些事は置いておき、ティティベル神は集まった面々にまず礼を述べた。
「まず、私の呼び掛けに応じてくれてありがとう。魔神ジャスティスにいたっては、私のわがままで居城の一室を貸してもらったこと、本当にありがたく思ってるわ。ありがとう」
貸し借りをつくるのは好ましくない。これを貸しだとはおそらくジャスティス神は思っていないかもしれないが、この場では礼節をわきまえるべきだと、ティティベル神は理解していた。
「ティティベル姉。挨拶はその辺で。オイラたち、これでも忙しいからさ。んで、本題は?」
「容赦ないわね、ロード。まぁ、いいわ。本題はね、ナーガをなんとか止めたいのよ。今、私の居城にいるんだけどね、強くなりたいからって無茶なことばっかりやるの。ナーガは、あなたたちが肩入れしてる少年の仲間でしょ? 私としては、勝手にやってくれって言いたいところだけど、今のままじゃナーガがいつか取り返しのつかないところまでいきそうで。そうなると必然的に・・・」
言葉を濁したティティベル神の後を、他の者たちが引き継いだ。
「テルアなら、確実に怒るじゃろうな」
「怒るな、絶対」
「オイラも怒ると思う」
「私は予想が立てられませんが。普通、怒りますかね」
「そうでしょ!? そう思うわよね! だから、怒らせたくないからあなたたちを呼んだの! なんとか打開策はない!?」
ティティベル神の必死な様子に、クレスト神と、ジャスティス神はさもありなん、と少し気の毒そうな表情をし、ロード神は苦笑、クク神は顎に手をあて、考える。
「そうは言うてものぅ。儂らよりも、ティティベル神の方があやつとは付き合いがあるんじゃろ? 儂らに相談するよりも、自分でナーガに言い聞かせた方が早いと思うんじゃが」
「おとなしく聞き分けてくれるなら、これほど切羽詰まったりしないわ。私の修業以外で、とにかく休もうとしないの。あそこまできたら、もはや病気よ」
「あー、相当堪えたんだろうなー、テルアが目の前で倒れてんのに、自分はなんにもできなかったこと。それで自分を責めてるとなると、こりゃちょっとばかし厄介かもなぁ」
太陽神ロードが困ったように頬をかく。
「何にも? そりゃ、鍛え方が足りないとしか言えねぇが。それでぶっ倒れてちゃ本末転倒だな。なんなら、俺が鍛えて・・・」
「それはやめといた方がいいでしょう。あなたの場合、加減を知りませんから」
「ん? つまり、加減を知っててそれなりにナーガの相手できて、尚且つ武器にも精通してる奴・・・なら、一人適任者がいるじゃねぇか」
「「「え?」」」
「あぁ、武神はどうやら儂と同じ顔を浮かべたようじゃのう。そうじゃな。あやつならば、適度に休憩も取らせてくれるじゃろう」
「だな。ティティベル神。ナーガを修練の塔に連れてったらどうだ? ガンダムッポイノなら、武器にもそれなりに精通してるし、何よりあそこは死にかければすぐに塔の外に追い出されるから、ある意味修業には最適だぜ?」
ポカンとしたが、ティティベル神はすぐに思考を切り換えて、武神の案を検討しだした。ティティベル神とて、ずっと居城にナーガを留まらせるのは不可能だ。あそこはティティベル神の力、すなわち瘴気に満ちた場所でもあるのだ。ずっとそんな場所にいれば、ダークエルフであろうが人であろうが、ひとたまりもない。
さらに無茶を重ねてしまう今のナーガはとても危うい。故に、別の場所で死ぬ程ではないにしろ、修業ができる場が望ましいと考えていた。
修練の塔ならば、確かに条件を満たしている。
「そういえば、今あそこに珍しくこの世界の住人が来たと言っておったのぅ。どうじゃ、ティティベル神? ここは武神の案を受け入れて、ナーガを修練の塔に連れて行ってみるのは?」
「はいはーい! オイラ、賛成!」
「そうですね。脳K・・・失礼、クレスト神の案にしては上出来だと私も思います」
「おい、クク! 今俺のことを脳筋って言いかけなかったか、あぁ!?」
「空耳では?」
すっとぼけるクク神に、クレスト神はこめかみをひきつらせた。
「はいはーい! 喧嘩はそこまでな! それで、ティティベル姉、どうすんの?」
「ナーガを修練の塔に押し付けるわ。そうすれば、私の肩の荷は降りるし、死なないしで一石二鳥だから」
ティティベル神は、話を聞いてから、ナーガを居城から追い出す画策を既に頭の中で始めていた。
「では、ティティベル神はいますが、どうやら周囲の様子がわからなくなってくれているようですし。こちらの本題に入りましょうか」
ティティベル神がすっかり自分の思考に没頭したのを見てとり、クク神が切り出した。ティティベル神の悩み相談は、彼ら四柱にとっては本題ではない。
「オイラの方は、準備できた。ほら、太陽神の力を込めた福豆」
ロード神は、懐から升に入れられた豆を出した。
「こっちは、魔神の力を込めた銀酒じゃ。一定時間、特定の魔物を出やすくする効果がある」
ジャスティス神は、酒と書かれた瓶を置く。
「俺の方は、武神の力を込めた丸薬だな。一定時間、物理攻撃力を二倍に上げる効果がある。ま、効果時間は短いのと、戦闘中は使えねぇってデメリットはあるがな」
クレスト神は黒の丸薬が入ったガラス瓶を手中で弄んでから、クク神に投げ渡す。クク神は特に苦労せず、それを受け取った。
「私の方は、私の力を込めた、魔法攻撃力を上げる魔法水です。ちなみに、私たちの他にも頼まれた神がいるようですので、他の効果の物はそちらの神々が用意するのでしょう。これらの品々は私から主神に渡しておきます」
「やれやれ。老人を少しは労るということをせんのぅ、あやつは」
「ま、魔物に関することはじいさんに頼むのが一番だと思ったんだろうさ」
「なんにせよ、これでイベントの準備はかなり進んだってことか。オイラ、今からワクワクしてきた!」
魔神の居城に集まった面々は、自分が命じられたイベントアイテムの作製から解放されたことで晴れ晴れとしていた。
あとのことは主神メーサデガーらが頑張ればいい話だ。
イベントまで、残り日数は僅かとなっていた。
次→7/8 19時




