16話 テルアVS魔物たち
「じいちゃーん! シヴァ、ブラッド、ハイドー!」
僕がログインすると、じいちゃんと三体の魔物の姿はどこにもなかった。
ここは、アーブの森林迷宮の広場だ。ちなみにここ、5のつく日には、商人や僧侶、流れの鍛冶屋が集まって、少し割高ながらも店を開くから、街に帰れなくなった冒険者はそれを狙って、ずっとここで野宿するキャラもいたりする。
最初に怪我をして動けなくなった冒険者を僕が見つけて回復させたら、街に帰れないので送ってほしいという、キャラの護衛のゲリラクエストが発生した。
ちなみに、無事に送り届けると報酬で、二十万ギルもらえた。途中で、冒険者が探し求めていた品を三つ探し当てて渡したからボーナスがついたみたいだった。
と、話がそれてしまった。
普段ならここでみんな、特訓したり、じいちゃんの授業受けたりしているんだけど。
あれ? 誰もいない。どこ行ったんだろ、みんな。
僕はひとまずみんなを探すことにした。
アーブの森林迷宮は、D〜Cランクの魔物が出る迷宮で、森林と名のついてる通り、この迷宮はどこまでも広がる深い森といった感じの迷宮だ。ジャングルと言い換えてもいいかもしれない。
出てくる魔物もそのジャングルに適した魔物であり、手長ザルや海賊ワニ、鉄甲羅亀、殺人蜂、風虎、僕が最初に出会った闇蛇、トレントなど、低レベルのプレイヤーでは瞬殺されかねない手強い魔物が目白押しだ。
さらに、数は少ないがまだ上位種の魔物が迷宮の奥に潜んでいるんだから、笑えない。それに驚異は魔物だけではない。毒沼や底無し沼、落とし穴、魔物寄せ、仕掛け床、激水の陣、投網、等々。
罠も多彩で、常にスキルを使っていないと、少しの油断であっという間に窮地に陥る。
まぁ、じいちゃんとの特訓で僕は大幅なレベルアップをしてるから、迷宮の奥に潜む魔物でなければそうそうに遅れはとらないと思うけど。
どこにでも例外というものが存在する。
そして、その例外たちは僕に突如襲いかかってきた!
ブラッドの超音波攻撃!
しかし、テルアは耳を塞いでいる!
テルアに116のダメージ!
超音波の追加効果は発動しなかった・・・。
シヴァの毒触手攻撃!
しかし、テルアはすべて回避した!
テルアの反撃!
テルアは十連投げナイフのスキルを使った!
シヴァの急所にクリーンヒット!
シヴァに358のダメージ!
シヴァは警戒している!
ハイドの不意打ち攻撃!
テルアは回避しきれなかった。
テルアに224のダメージを与えた!
「くっ。ハイド、また、隠密スキルが上がってるし!」
僕は、三体から距離を取りながら、警戒する。
あ、なんでいきなり三体に襲われたか? 簡単簡単。これ、じいちゃんの特訓の一部。 二日目から、ログインする度に、僕はみんなを探したり、みんなが仕掛けた罠解除にいそしんだり、課題として出された魔物を倒したりしてる。
じいちゃんてば、本当に容赦してくれない。
ちなみにこの戦闘は、僕が三体のHPを半分以上削るか、三体が僕のHPを半分削るかしないと終わらない。
僕としては、こんな風にみんなと戦いたくないんだけど・・・状態異常の中には「混乱」と「魅了」ってのがあって、同士討ちになる可能性も否定できないため、こんな風に互いに戦う場面も出てくる場合があるんだって。理屈は通ってるんだけど、みんなのやる気が昨日からすごい高まりを示してて、どうもじいちゃんに何か吹き込まれた感じがひしひししてるんだけど。
僕がこんな風に心中で考えてても、意識の一部は常に戦闘に備えてる。
ファイヤーボール。
詠唱破棄のスキルのおかげで呪文も名称も唱えなくていい。
魔法で、僕の周囲には三つの火の玉が浮かび、それを三体に向けて放つ。ブラッドとシヴァの共通の弱点は火、ハイドの弱点は意外なことに水だ。
テルアはファイヤーボールを放った!
三体が回避行動を取るが、ファイヤーボールは三体が回避してもそれを追尾するように動き回る。
ブラッドが警戒音を発する。
さすが、知力の高いブラッド。
僕がファイヤーボールで、三体を別々にしようという魂胆を見抜いたらしい。バラバラにした方が、各個撃破できるからね。 三体は樹木を使ってファイヤーボールになんとか対処したけど、その隙は大きかった。
三体がファイヤーボールに気をとられてる間に幻惑魔法を用いて、森の風景に溶け込み、ハイドの側まで忍び寄っていた僕は、ハイドの目を狙ってアイスアローを放った。
「ギィィイイイイイ!!」
さすがに全ての目を潰せるほど甘くはなかったけど、三つの赤目にアイスアローが突き刺さる。
テルアのアイスアロー!
ハイドに394のダメージ!
手加減は無用。互いに本気でやらなければ、後でこの戦闘の様子を見ているじいちゃんに怒られる。
「二連斬」
テルアの二連斬! ハイドに207のダメージ!
さらに、上からの奇襲でハイドの目を二つ奪った。
残る目は三つ。
ハイドが見えない死角から仕掛けたかったが、ブラッドの超音波とシヴァの毒吐き攻撃によって、追撃はさせてもらえなかった。
手強い。
素直にそう思う。
三体のコンビネーション攻撃も、三体それぞれの特殊攻撃も、たとえ別々にしようとしたってそれを容易にはさせてくれない察しの良さも。
たった四日でここまで強くなったみんなのことをとても嬉しく、誇らしくも思う。
だから、僕も手加減はしないよ。
手加減されても、みんなが嬉しいはずないから。
僕は、自分に光魔法ヒール、さらに光魔法のスピードアップ、パワーアップを掛ける。
本来なら、ここでみんなに闇魔法のステータスダウン系の魔法をかけたいところだけど、みんなは闇属性耐性が高い。
レジストされる危険性が高いし、なにより掛かっても僕の狙いに気づかれるので、やらない。
「行くよ」
宣言を聞いたみんなは、瞬時に散ろうとするが、もう遅い。
「花烈大破ぁああああ!」
今の僕が放てる、範囲攻撃のできる剣術スキルが炸裂した。僕の体が熱を帯びて三体に迫る。
まるで花が開くように、斬撃が咲き乱れる。その度に、みんなはダメージを負っていく。普段の僕のスピードだと、ブラッドだけは花烈大破の範囲から逃げてしまうから、今回はスピードアップを用いての使用だ。
って、やば!?
僕は慌ててスキルをキャンセル扱いした。
テルアの花烈大破!
シヴァに1017のダメージ!
ブラッドに1502のダメージ!
ハイドに603のダメージ!
しまった、パワーアップも掛けちゃってたんだ!
おまけに、花烈大破は火属性の攻撃。
シヴァとブラッドは瀕死の状態に陥ってる。
「ごめん、やり過ぎた!」
僕は慌ててみんなに駆け寄り、みんなの傷を治した。もちろん、ゲームなので、回復魔法を使えばハイドの目玉も治る。
「ごめん、本当にごめん! この通り!」
僕が平謝りしていると、みんなはどうも苦笑いしているようだ。
「やっぱり、テルアに魔法教えるのは危険みたいじゃのう。使いこなせておらん!と怒るどころか、使いこなし過ぎてて、特訓の相手が危険じゃわい」
「じいちゃん!」
戦闘が終了したと判断したじいちゃんが、僕たちの前に姿を現していた。
次→19時




