147話 神を鎮めるために 28(※多数視点)
ティティベル神は、セルト神を哀れに思った。ロード神を怒らせた。
それは、死刑宣告にも等しい。
ロード神は、滅多に怒りを露にしない。何故なら、一度怒ってしまうと、自分で自分の制御が利かなくなるからだ。
理性を失ったロード神がどれほど危険かを、彼女は熟知している。
神にも、序列がある。力の序列だけではない。位の序列もある。その中でも、役割を持つ神の位は高い。
ティティベル神は、位落ちをしてしまい、全盛期の力を失ってしまった。
しかし、ロード神は違う。
太陽神とは、神の序列第三位であり、こと、無手の格闘術だけで言えば、ロード神は、武神クレストとタメを張れる。
そして、太陽神というからには、光と火属性の魔法は彼の十八番である。
ティティベル神は、一応村の周囲に結界を張っておいたが、どこまで保つかは、微妙なところだ。
できるなら、完全に理性を失わないで欲しい。
そうなれば、もうティティベル神だけでは止めきれない。
「テルアっ! 大丈夫か!?」
ナーガの切羽詰まった悲痛な叫びに、ティティベル神は頭が痛くなっていく。こっちの問題も残っていたのだ。
「どいて」
ナーガを横にどかせ、ティティベル神はテルアの傷を診る。どうやら、相応のダメージは与えられているようだが、死んではいない。
「このくらいの呪いなら、今の私でも解ける」
ティティベル神は、テルアに手をかざした。
幸い、今夜は満月。ティティベル神の力も強くなる日だ。
ティティベル神の力で、テルアに刺さった黒い刺が消えていく。
「「良かった」」
安堵の声が重なった。ナーガは今にも泣きそうな顔を引き締めて、周囲を見渡す。
周囲には、元はダークエルフたちだった魔物がいたはずだが。
テルアの魔物軍団が全てを片付けていた。魔物たちは、一応全員痛めつけられているものの、生きたまま捕縛されていた。ハイドの鋼糸の強靭さに、改めて驚かされる。
「! セルトに魔物化させられたの?」
「・・・・・・わからないです。でも、あいつが出てきてから、急にみんなが苦しみ出して、姿が変わりました。俺のこともわからないみたいです」
うなだれながらも、状況説明を行うナーガ。
「! セルトのやつ、あたしを奉じる村に手を出して・・・!」
「なんとか、なりませんか? 村のみんなは悪くない。悪くないんです。俺が・・・」
ナーガの言葉に、ティティベル神は首を横に振る。
「今夜は満月だから、儀式さえ行えれば、魔物化を解けるかもしれない。でも、それには必要な物があるのよ。強力な魔力を宿した物を私に捧げて、舞を奉納されないと、できない。弱体化した、私の力では・・・」
その先をティティベル神は言わなかった。
「ティティベル様。これならどう?」
いつのまにかテルアが起き上がり、手に何かを乗せていた。それを、膝をつき、ティティベル神に捧げるように差し出している。
「!! これ!」
テルアが差し出したのは、百合月の石と、聖樹の一枝だった。本来はさらに、食事やお酒を捧げるのだが、簡略的な物でも、これだけの物があれば、問題はなさそうだった。
「あとは、舞! 舞を奉じられれば、ここにいる者たちを助けられる!」
「俺がやります!」
ナーガは己から立候補した。
「俺が、ティティベル様のために舞います!だから!」
「あの祭壇へ! 舞は、月光と蝶の舞! あ、でも、祝詞を捧げてもらえると、さらにやりやすいんだけど!」
「じゃあ、祝詞は僕が」
役割分担が決まった三人は、すぐに黒焦げになった祭壇へと上がった。
そして、祭典が始まった。




