144話 神を鎮めるために 25
みんなと一緒にのんびり過ごし、リラックスしたところで、クレストのおじさんが言っていた一時間が経過した。
すると、村に動きが出始める。
村の中央の広場に続々とダークエルフたちが集まってきていた。
それを、気づかれぬように距離を取りながら、僕は解析を使っていく。
やはり、ダークエルフたちは気づいてないようだが、状態異状の堕ちた呪術神の呪いに掛かっているようだ。
広場に集まっているダークエルフたちは(待機状態)だけど。
これは、ひょっとするとティティベル様にも話をきちんと聞かないといけないかもしれない。と、するとやはり、ナーガの救出は絶対だ。
やがて、ドンドンと、太鼓が打ち鳴らされ、麻袋を頭に被せられた小柄な人影が、設置された祭壇の上の台に乗せられた。
ばさりと、袋を取られると現れたのはナーガの顔だった。
意外と元気そうだけど、ナーガは状態異状の沈黙と麻痺に掛かってるみたいだね。
それでも、なんとか鎖をほどこうと、もがくナーガを今すぐ助けに行きたいんだけど、僕らは広場に入ることはできなかった。例のごとく、イベント中ですので入れません、だそうだ。
早くしてよ! このままじゃ本当にナーガが生け贄にされちゃうよ!
じりじりと焦燥感を募らせながら、僕らは時を待った。やがて、ようやく介入できるようになった時は、ナーガの命は風前の灯だった。
予めスピードアップを掛けて敏捷を上げ、鋼糸と風魔法で一気に祭壇の上にまで、躍り出る。
ナーガの首に降り下ろされようとしていた斧を、短剣で受け止める。
ガキン、と音が響いた。
少年姿だけど、ステは廃人プレイヤー並に高くなってる。力負けすることはない。そのまま、斧の力をそらして、流した。
浄化をナーガに掛けて、とりあえず文句を言う。
「ナーガって目を離すとすぐに窮地に陥るね。しばらく単独行動禁止だから、そのつもりで」
ナーガは、驚きのあまり固まってしまったようだ。
でも、その口はかすれた声音を吐き出した。
「・・・テルア」
僕の名前を呼んで呆然とするなんて、失礼だね。助けに来るとか思ってなかったのかな?
ま、いいよ。とりあえず、この祭主はぶっ飛ばすって決めてるんだ。
人の大事な仲間に手を出しておいて、ただで済むなんて思ってないよね、当然?
「誰だ、貴様は。儀式の邪魔をするとは」
「ん? 名乗るのはおもしろくないね。ただ、君を思いきりぶっ飛ばしたいだけの、通りすがりの魔物使いだって覚えとくといいよ。ナーガ、今、鎖外すから、ちょっと待ってね」
「! させん!」
祭主のダークエルフは、僕に斧で切りかかってきたけども。
「師匠に何をする!」
チャップが僕への攻撃を防いだ。ぎらっと闘志をたぎらせた瞳で、祭主を睨む。
「チャップ。逃がさないようにお願い。みんな! 暴れていいよ! だけど、出来るだけ、怪我はさせないように無力化してね!」
僕の言葉に、広場のダークエルフは混乱し右往左往する者がほとんどだ。
だけど、それは絶好のチャンスを僕らに与えたことと同義だ。
ハイドが糸を吐き出し、次々にダークエルフを絡めとる。糸で巻かれたダークエルフは為す術なく、地面に倒れる。
ブラッドは、かっこいいポーズで何人かのダークエルフを魅了状態にして、同士討ちをさせている。さらに、飛び回りながら、毒状態にもしていってるみたいだ。
うわぁ、いつのまにか毒攻撃覚えてるよ、ブラッドってば。
シヴァは自作の薬で、ダークエルフを次々に再起不能に陥らせていってる。
ヤマト? ヤマトは飛来しては顔に爪で攻撃を加えてるよ。目を重点的に狙って、視界不能にしていってる。
「さて、あっちは大丈夫だね」
もちろん、こっちも大丈夫だ。チャップは、道化師ではあるが、剣術スキルのLvも高い。危なげなく、祭主の攻撃をさばいてる。
やがて、一際鋭い音と共に祭主が持っていた斧が弾き飛ばされた。
僕もようやく、ナーガに絡まっていた鎖をほどけた。
ナーガは自由の身になる。
「くっ。人間に、魔物だと!? この、どこまでも汚れた血筋め! お前のせいで父は死んだ! 村の者も、ティティベル神様の祟りで、ひどい目に遭っている! どこまで我らを苦しめれば気が済むのだ、お前は!」
「苦しめる気なんてなかった! 俺は、村から出ていければ、それで良かったんだ! それなのに、お前らが俺を生け贄にしようとしたんだろ!?」
ナーガが叫ぶが、祭主は憎しみのこもったどろりと濁った瞳でナーガを睨み付ける。
こいつ・・・。
「お前さえ、お前さえいなければ、フィーラは!」
「母さん? なんで、あんたの口から母さんの名前が・・・」
その時、僕の危機察知が反応をした。とっさにナーガの体に腕を巻きつけ、だん、と祭壇を蹴って地面に降り立つ。
そして、僕らが地面に降り立つその直前に。
祭壇に大きな雷が落ちた。
祭主は雷を思いきり受けてしまったようだ。
黒焦げになっている。
そんな!
地面に転がったダークエルフたちにも異変が起き始めていた。
その姿が、魔物と化していく。
一気に、広場内は魔物で埋め尽くされた。
もう、状態異状に呪いは出ていない。
残り日数など、残っていなかったからだ。
彼らは完全に魔物と化してしまったようだ。
こんな、立て続けに事態が動くなんて!
「余計なことを、してくれたな?」
僕らは見た。黒焦げになった祭壇に降り立つ人影を。
祭主など可愛らしく思えるほどの、禍々しい気配と共に現れたその存在は、僕らを震撼させたのだった。
次→6/26 19時




