137話 神を鎮めるために 19
帰宅後、目覚まし時計を掛けてから少しだけ仮眠を取った。なんとか、『ファンタジーライフ』にログインすると予想通り、クレストのおじさんに捕まった。悪夢再びである。
本当に、もうね、ぼこられるしかないんだって。しかも、普通は軽減される痛みとか、普通に感じる仕様にいつのまにかされちゃってるしね! 痛くて、涙目で、のたうちまわりたくても、クレストのおじさんがそれを許さない。
少しでもダメージ軽減するために、たくさんバフ系の魔法を掛けても、焼け石に水くらいの効果しかないよ。
改めて、クレストのおじさんのすごさを、身を以て教え込まれる。
僕に何か恨みでもあるの!?
と、叫びたい気持ちでいっぱいだったよ。
やっとクレストのおじさんとの地獄の猛特訓が終わったのは、午後の十時半。終わった後、僕何回死に戻りしたっけ?とか、ナーガのことなんて、頭から吹っ飛んでたよ。とりあえず痛む体に、回復魔法を・・・掛けられない。僕のSPはすっからかんだ。
回復アイテムももう全部ない。使いきってしまった。
途中でなんかログが流れてたみたいだけど、確認もしてない。そんなことするくらいなら、痛みをなんとかしたい。
「なんとか覚えたか」
何が、と聞きたいけど、あぁ、だめだ。頭がぼんやりする。
「よく頑張ったのぅ、テルア」
誰かが優しく頭をなでてくれる。それが気持ちよくて、僕は少しだけ意識を手放した。
胸元が重くて、はっと気づくと、眼前にはぬめぬめが・・・いや、シヴァがいた。
「うわぁああ!?」
びっくぅ、として、シヴァが慌てて僕の上からどく。
「ご、ごめん。寝起きでいきなりシヴァの顔面ドアップがあったから、ビックリしちゃって」
ーーーーーー主、全然目を覚まさないから、診察してたの。おじいちゃんがへまするわけないって、わかってたけど、それでも心配で。
あ、うん、ごめん。自覚ある。じいちゃん、来たんだね。イベントには手を出せないって言ってたはずだけど。でも、さすがじいちゃん。HP、SPとも全回復してる。あれ?
そこで、僕は称号とスキルが増えてることに気づいた。
称号で増えていたのは、武神の眷属だった。武神の期待を背負う者はそのままだから、これは新しい称号と見ていいのだろう。
新しく増えたスキルの方は、よくわからない。眷属化って書いてあるけど、どういう効果なんだろう?
「あ、ようやく起きたんだな! これで、やっとこの勝負を終わらせられるんだな。もう負けてるのはご愛敬なんだな」
「ぬぐぐぐぐ。くっそー! 全然いいカードが来ねぇ!」
ネギボウさんの声のした方に顔を向けて、僕はすぐに顔を背けた。うん、だってクレストのおじさんが全裸だったし。本当に、何やってるの?
「あぁ、師匠起きたのですね。実は今、脱衣ポーカーをやっていまして」
「ひどいんだな! 僕まで参加しろとか言ってくるんだな! 仕方なく参加したんだな!」
そして、ネギボウさんの後ろにはミルカスレーグイがいて、楽しげに助言してるみたいだ。
クレストのおじさんの後ろには、小鬼の像がいて、悪い笑みを浮かべている。
さらに、その小鬼の像を、しれっとしながらハイドとチャップが幻惑魔法で隠している。イカサマじゃないけど、みんなしてクレストのおじさんをはめてるようだ。
ブラッド? ブラッドはちゃっかり、脱いだクレストのおじさんの服に悪戯してる。
クレストのおじさん、少し後ろも気にした方がいいよ。
「そういえば、もう脱ぐものがないんだな。この場合、どうするんだな?」
「罰ゲームはどうでしょう? 例えば、この薬を飲んでもらうとか」
チャップがちゃぽんと取り出した薬は、一見ただの水にしか見えない物だった。
えーっと、それ、なに?
「軽い毒薬です。これを飲んでもらって、HPが半分を切るまで回復はなしとか、どうですか?」
「くっ。負けたのは俺だからな。まぁ、いいだろう」
そう言ってクレストのおじさんは男前にも、薬を飲んだんだけども。
途端、クレストのおじさんがばたんと倒れた。
何事!?
「お、お前ら、これ・・・!」
その後、クレストのおじさんは完全に沈黙した。
「一体、何飲ませたの!?」
「じっちゃんから預かった薬です。死にはしないから、迷わず使えと言われて渡されたんですよ」
じいちゃん、容赦ない! あ、うん、しかもクレストのおじさん、ここに放置するみたい。え、ここ、フェルマの街の近くだよ?
こんなところに全裸で放置プレイなの?
さすがにそれは・・・。
僕は浄化の魔法を使おうか迷っている間に、後ろから肩に手を置かれて、一瞬で視界が切り替わっていたのだった。
もちろん、クレストのおじさんに浄化を使うことはできなかった。
街の人の迷惑にならなきゃいいけど。
次→23時半(予定)
ジャスティス「誰もあそこまで痛めつけろとは言っとらん!」
と、いうわけで、クレストのおじさんはジャスティスから逆恨みされたのだった。




